世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2901
世界経済評論IMPACT No.2901

米国多国籍企業の中国進出状況

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2023.03.27

 2022年11月に米国商務省が2020年の米国の多国籍企業の海外進出状況を発表した(注1)。

 それによると米国側がマジョリティを出資する米多国籍企業は全世界で3万7,697社を数える(注2)。地域別にみると欧州が1万8,705社で49.6%を占め最大であり,続いてアジア大洋州が8,524社で22.6%を占め,中南米が6,269社で16.6%となっている。国別にみると英国が最大で4,304社であり,カナダ2,533社,オランダ2,375社と続き,中国は1,919社で第4位である。アジアでは中国は最大の進出先であり,第2位は豪州で1,172社,日本は783社で4位である。

 総資産では英国が6兆1,940億ドルで最大で,オランダ,ルクセンブルグ,アイルランドなど欧州が上位を占めている。アジアでは日本が1兆860億ドルで最大であり,シンガポール1兆440億ドル,豪州8,230億ドル,香港5,890億ドルと続き,中国は4,873億ドルで5位である。販売額でも英国が6,490億ドルで最大であり,中国は3,710億ドルで5位となっている。アジアではシンガポールが4,250億ドルで最大であり,中国は2位,日本は2,350億ドルで3位となっている。

 付加価値では英国が1,569億ドルで最大であり,カナダ,アイルランドと続き,中国は788億ドルで4位である。アジアでは中国は最大であり,シンガポールが640億ドルで2位,日本は487億ドルで3位となっている。研究開発支出では,英国が59億ドルで最大であり,以下ドイツ,スイスと続き,中国は43億ドルで5位である。アジアではインドが44億ドルで最大であり,中国は2位,日本が29億ドルで3位となっている。

 雇用では,英国が149万人で最大であり,2位はインドの146万人,3位はメキシコの14万人であり,中国は120万人で4位となっている。アジアでは中国はインドに続き2位であり,日本は38万人で3位となっている。中国での雇用を産業別に見ると,製造業が最大で68万人,サービスが52万人,鉱業が3.5万人となっている。製造業では,コンピューター・電子製品が18.3万人で最も多く,化学が7.4万人,輸送機器が1万人などとなっている。サービスでは,その他サービスが19.8万人,小売業が12.1万人,卸売業が9.8万人である。

 米国の多国籍企業の海外進出では,英国が最大の進出先であり,資産や販売額,雇用などで最大となっている。その他の主要進出先は,隣国のカナダ,欧州のアイルランド,オランダなどが主要進出先国であるが,中国はこれらの国に続く主要進出先となっている。アジアでは企業数では圧倒的な1位であり,販売,R&D,付加価値,雇用などでもシンガポールやインドと並ぶ主要進出先である。チャイナプラスワンの進出先として注目されているタイは269社,インドネシアは207社,ベトナムは75社と少ない。

 米国企業のトップは2022年に入って製造拠点を中国から移管する計画を打ち出しており,中国を製造拠点としている企業は中国をサプライチェーンから除外する動きを見せ始めているという(注3)。2022年の対中外国投資(実際使用金額)は前年比8%増の1,891億ドルと前年の20.2%増から増加率は低下したが,安定した増加となっている(注4)。韓国,EU,英国からの投資が増加したが,米国からの投資の動向は明らかにされていない。中国での米国多国籍企業の販売額は2022年の米国の対中輸出1,777億ドルの2倍の規模であり,中国市場の米国多国籍企業にとっての重要性を示している。サプライチェーンから中国を排除するデカップリングの動きが投資で本格するかを判断するには米国からの対中投資動向を見る必要がある。

[注]
  • (1)Bureau of Economic Analysis, US Department of Commerce. ‘Activities of U.S. Multinational Enterprises, 2020.’ November 18,2022
  • (2)米国側が過半を出資する多国籍企業(Majority-Owned Foreign Affiliates: MOFA)で,資産,販売あるいは純所得が2,500万ドルを超える企業である。
  • (3)磯部真一(2023)「米中対立に出口見えず,振り回される企業はどう動く」ジェトロ地域・分析レポート,2022年1月24日。
  • (4)Ministry of Commerce(MOFCOM), January 18, 2023.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2901.html)

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