世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
女性活躍の鍵を握るのは?:そろそろ本気で考えよう,無償労働からの解放
(桜美林大学経営学系 教授)
2022.08.22
企業が「人的資本」に適切に投資しているかを投資家が判断できるように,人材への投資にかかわる経営情報を開示することが求められるようになってきた。2023年度にも有価証券報告書への記載を義務付け,女性役員の比率などの開示を通じて人材への投資を促すことで無形資産を積み上げ,日本企業の成長力を高めていく。
たしかに,2022年世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数は日本は156か国中116位という悲観的なデータもあるが,足許では女性管理職は増加の一途を辿り,例えば,2010年から2020年の10年で上場企業や大手企業における取締役に占める女性の割合は1%から11%と大きく伸びている。このペースでいけば,イギリスで2010年から2020年の10年で9.5%から33%と増加したように,日本も2030年までに30%を超える可能性もある。
その一方,責任ある立場に女性を引き上げようとすると断れられた,とぼやく人事担当者の声もしばしば耳にする。なぜなのか? コロナ禍で急速に導入されたリモートワークにより,通勤による時間ロスは大幅に軽減され,何よりも物理的に職場にいなくてはならないという呪縛から解放された。これは大きなメリットである。しかし,依然として管理職を前に尻込みする女性が多くいる。
ここに面白い統計がある。かつでは女性が社会進出をすると少子化になると言われていた。これは間違いである。世界的に見て,ジェンダー平等が進んだ国ほど,出生率が改善しているのである(日経新聞2022年7月31日朝刊)。顕著な例が北欧である。ジェンダー格差をなくすことに国を挙げて努力してきた結果,家事・育児の時間の男女差が少なく,女性に負担が偏らなくなった。
では日本はどうか。女性が責任ある仕事をする場合にネックになることは何なのか? それは,家事などの無償労働は女性が担うという現実が日本では続いていることにあると筆者は思う。それではどうしたらよいか。夫婦で家事を分担する,これも確かに一理ある。しかし,共に忙しい夫婦だった場合,これは夫婦喧嘩の種にならないだろうか。
シンガポールやタイの大学では学部長は女性が多いし,企業の役員にも女性が多い。あるシンポジウムで仕事と家事の両立をテーマにしたパネルディスカッションでのこと,日本のパネリストがいろいろと苦労話をしたところ,シンガポールやタイの彼女らに「私たちにはこういう問題はない」とあっさり言われてしまい,議論がかみ合わなかった。実は彼女らの場合,家事をほとんどが住み込みのお手伝いさんが担っているからである。日本では住宅事情が許さないこともあるだろうから,通いのお手伝いさんを雇うとか,料理が好きな人に来て作ってもらうとか,届けてもらうとか,いろいろな選択肢が考えられる。残念なことに,日本では家事をアウトソースしていると公言すると批判されかねない風潮がある。実は社会的に活躍している女性の中にはアウトソースしている人もいるのだが,けっして言わない。筆者の例で恐縮だが,我が家は通いのお手伝いさんに来てもらって,子供たちも「おばちゃんの味」に親しんで成長した。私は仕事から帰るとすぐに子供たちとの時間を楽しむことができ,心身共に健康が守られ,仕事を思う存分することができた。本当に感謝している。
女性活躍のカギを握るのは無償労働からの解放。アウトソーシングにより,それを有償労働に変えること。新たなビジネスチャンスともなれば,経済の活性化にも資するのではないだろうか。
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