世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2468
世界経済評論IMPACT No.2468

介護砂漠多摩ニュータウンは終の住処になれるか?

市川 周

(白馬会議運営委員会事務局 代表)

2022.03.21

人口高齢化爆発と“介護砂漠”

 コロナで2年間開催出来なかった白馬会議だが,今秋は是非再開したいと思っている。本稿は白馬会議の宣伝ではない。私の住んでいる多摩ニュータウンの超高齢化の実態とその将来展望について書いてみたい。

 半世紀前に入居が始まった諏訪,永山を始め,貝取,豊ヶ丘,落合のニュータウン「5地区」に6万人市民が住む。その6万人の内,現在1万人が75歳以上であるが,彼らは5年後には80歳以上となり,さらに5年後,すなわち10年後には,端から端まで車で10分足らずの地域に健康寿命の尽きる85歳以上の高齢市民1万人が“密集”することになる。

 この多摩ニュータウン「5地区」はかつてニュータウン発展期に新住宅市街地開発法に基づき開発された住宅専用ゾーンであり,小中学校,保育幼稚園,クリニック,近隣小規模商業施設,ミニ図書館・市民ホール以外の非住宅関連施設の立地は厳しく制限された。当時,働き世代であったニュータウン住民の将来の老後生活に対する関心も当然希薄であり,この地区は団地でうめつくされていった。

 その結果,「5地区」内の介護・看護関連施設は市内全域と比較すると驚くほど少ない。高齢化住民は「5地区」の域外に小規模,分散型に展開されている同種施設に依存せざるを得ず,将に“介護砂漠”状態に置かれている。このままでは10年後に到来する人口高齢化爆発には全く対応できず,「介護崩壊」に直目することになる。

有料老人ホームは“高嶺の花”

 「いざとなったら5地区外にある有料老人ホームに入居すればいい」という考えもあるが,現実は厳しい。有料老人ホームの月額費用は低価格でも20万円から25万円である。一方,65歳以上の多摩市民の2020年個人所得は

 全体の54%が月17万円未満であり,月25万円に満たない高齢市民が市全体の73%に達する。多摩市内高齢者にとって預貯金の蓄えなくして,有料老人ホームに入居するのは実はかなりの“高嶺の花”である。

 従って,大半の多摩ニュータウン住民は心身が許す限り,自己の老後ライフを住み慣れた団地の自宅で送らざるを得ない。その時に求められる「生存条件」が2つある。1つは,団地域内に十分な通所及訪問型の介護・看護関連施設が存在することであり,もう1つは,在宅老後ライフがぎりぎり限界に達した時,最後に入居出来る介護・看護サポート付きの安価な賃貸団地型マンションが存在することである。

廃校跡地にニュータウン対応型高齢化サポート拠点を

 マンションでひしめく団地内に聖域の如く残された大型空地がある。もうとっくに巣立ってしまった子供たちが通っていた小学校や中学校の廃校跡地である。これは市有地であり,正真正銘の「市民財産」である。ここにニュータウン対応型の高齢化サポート拠点を造成するのだ。大規模かつ急激に増大するニュータウン型人口高齢化には小規模分散型の介護・看護施設では対応しきれない。ニュータウン開発当時の大規模と効率性を重視したコンセプトを,今度はベットタウン造成ではなく「終の住処タウン」造成に活用する。すなわち自転車のハブ(タイヤ中心部の車軸)とタイヤをつなぐ放射状のスポーク群の関係を模したハブ&スポーク型の一大高齢化サポート拠点の造成を目指す。

 具体的にはニュータウン中心部に立地する旧豊ヶ丘中学校跡地に通所・訪問サービス両面対応の介護・看護施設を併設した「サービス付き高齢者向け住宅」を2~3棟建設する。「サービス付き高齢者向け住宅」は3~5階建てのエレベーター付きワンルームマンション(現状,ニュータウン内の5階建て分譲マンションの大半にはエレベーターがついてない)で,独居での老後生活や老老介護が困難化した団地高齢者住民が優先的に入居する。入居想定者数は300人程度。賃料は3食付きで月20万円以下と有料老人ホームより安価とし,全館バリアフリーで常駐スタッフが24時間緊急対応する。ゴミ出し,買物代行,居室清掃等の生活支援サービス(有料)が付随している。

 ニュータウン型サービス付き高齢者向け住宅の最大の特徴は1階部分に同住宅周辺に居住する高齢団地住民も利用できる通所・訪問型介護・看護施設が併設されることだ。併設施設群としては,ホームヘルパー・訪問看護派遣事業所とともに,デイサービス,デイケア,グループホーム,ショートステイ,小規模多機能ホーム,認知症対応通所介護,クリニック等の通所施設が展開され月間3000人~5000人の利用者数が想定される。

健康寿命が尽きた後の不安

 本構想に関する市民シンポジウムをコロナ渦おさまらぬ2月下旬に多摩市ベルブホールで開催した。平日夜,開催の本シンポジウムになんとニュータウン「5地区」住民を中心に100名を越える高齢市民がつめかけ,予想を超える参加者の熱気と関心に主催者側も圧倒されることになった。

 「今は何とか過ごしているが,これから5年後,10年後が心配だ」―この不安が会場にたちこめていた。多摩市民の「65歳健康寿命」は男性が84歳,女性が86歳。それぞれ要介護2レベルで生活できる年齢だ。問題はこの健康寿命が尽きた後の人生である。ニュータウン「5地区」では85歳以上住民が10年後には1万人に迫る。

 現在の多摩市介護福祉行政は市民に健康寿命延伸の夢(ほとんど幻想)を振りまきながら,本格的な介護インフラ投資を先延ばししているように見える。しかし,この逃げ腰的政策の破綻は時間の問題である。かつて住宅公団のベットタウン開発に乗せられ育てられてきた多摩市は今,自らのイニシアチブでベットタウンから「終の住処タウン」に向けたニュータウン改造への踏み出しが問われている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2468.html)

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