世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2418
世界経済評論IMPACT No.2418

日本の気候変動対策と課題

高多理吉

(富士インターナショナル・アカデミー 校長)

2022.02.14

 パンデミックの終息が見えない中,人類の将来に関する最大の課題である「気候変動」への関心が低下しているように思えることに私は危惧の念を抱いている。今回は,そのような中にあって,日本の役割の重要性を考えてみたい。

 まず,第1に,日本の二酸化炭素排出量は,中国,アメリカ,インド,ロシアに次いで世界第5位であり,一人当たりの排出量は3位のインドの5.6倍に達し,その責務は大きい。

 第2に,日本はまだまだ優秀な技術力を持っており,気候変動の改善への貢献度の可能性が大きいということである。

 第3に,排出量の多いアジアに位置するという地政学上の利点を活用出来ることである。

 第1については,評論の余地はないと思うので,第2について,触れたい。

 英国の国際環境NGO(CDP)が2019年に世界の約1万3000社を対象に,気候変動に関する評価リストを作成し,最高のAリスト179社を選定した。この中で,トップ10が,1位日本(38社),2位アメリカ(35社),3位フランス(22社),4位英国(10社),5位ドイツ,韓国(各9社),7位スイス,スペイン(各7社),9位ノルウェー(6社),10位オランダ(5社)という結果で,誇らしいものである。

 しかし,一方では,2019年,二酸化炭素の排出量が多い石炭火力発電所の新増設を計画しているとして,日本は,世界最大の気候変動NGOネットワーク組織である環境NGO(CAN)から不名誉な「化石賞」を贈られている。

 ここで,認識しなければならないのは,個々の企業は世界ナンバーワンの評価を得ながら,国としては,世界から逆の評価を受けていることである。そして,課題は,外国から見て国家の理念・政策が世界基準に合致したものとなり,日本の個々の企業との連携,企業同士の連帯等が明確化されなければならないということである。

 次に,第三番目の日本の地政学的位置を,二酸化炭素排出国との関連で考えたい。

 グローバルノート(国際統計・国別統計専門サイト)が2021年7月に発表した世界各国・地域の順位別二酸化炭素排出国79位までのリストの中に,アジアは,中国,インド,日本,韓国,インドネシア,ベトナム,タイ,台湾,マレーシア,シンガポール,パキスタン,フィリピン,バングラデシュ,香港,スリランカの15か国・地域が入っている。しかも,順位10位の中,アジア諸国が半分の5か国を占めている。これに,オーストラリア,ニュージーランドを加えると,日本の影響力が高い国・地域が上位79位中17か国・地域が存在しているのである。

 加えて,世界で影響力のある企業が,事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする協力イニシアチブの「RE100」に対して,日本企業は,様々な業種からなる企業63社(2021年12月現在)が参加を表明しており,アメリカ84社,日本63社,英国49社,の3か国がダントツに多い。

 字数の関係で,具体的な個々の企業の取り組みの詳細には触れることができないが,アセアンには多くの日本企業が進出しており,進出国の省エネ・エネルギー対策に協力できる余地は大きいのではないかと考えている。水素エネルギーの未来にも関心が集まっている。

 気候変動は,人類共通の最大課題であり,敗者も勝者もおらず,すべてが敗者である。そうした中,協力体制を組むことは,WIN-WINの関係であり,我が国への評価も高まると同時に,協力体制を連帯して実施することで,過去の日本に対する思いも清算されていくと信ずる。この考え方は,大学院で「アジア環境協力特論」を教えていた関係で,かつて韓国を訪問した際,グリーン委員会のメンバー教授とも完全に一致した。

 日本政府は,アジア・オセアニアで気候変動に関する協力体制に取り組む企業に対して,資金的援助の体制づくりを検討し,支援対策も具体化しているが,さらに,踏み込んで,我が国の地域における評価を高め,各企業が取り組みやすい状況を作る必要がある。

 パンデミックの終息は見えないが,終息したあかつきには,気候変動問題が急浮上することは確実である。今の時点で,国家の大胆な理念を政策として打ち出し,政府・企業共にグランドデザインを構築し,具体的な国家と企業,企業同士の連携の在り方と国家の大規模な企業支援策が国民に見える形で公開されることが必須であると考える。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2418.html)

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