世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の中東への軍事介入は終わってはいない
(公益社団法人国際経済労働研究所 所長)
2021.09.27
中東で続いた米国の武力行使
2021年8月末,米国はアフガニスタンから軍を撤収させ始めた。これで中東での米国の武力行使は公的には終わったとされている。しかし,それは誤解である。軍を派遣しなくても,民営化された軍事会社は相変わらずこの地域がカネ儲けの場であるし,米国の軍需産業もこの地域への膨大な武器供与で巨額の儲けを出し続けている。
米国の歴代政権は,中東地域での武力行使の可能性をつねに広言していた。例えば1980年1月23日の「一般教書」で,あのジミー・カーター大統領ですら次のように演説した。
「米国はペルシャ湾岸地域を支配下に置こうとする域外勢力のいかなる試みも,我が国の核心的利益に対する攻撃と見なす。そのような攻撃に対しては,いかなる手段を用いてでも報復を行う。そこには軍事力の行使も含む」(注1)。
ここで言及された「軍事力行使」には,イスラエルへの米国の膨大な軍需品供与も含めるべきである。
イスラエルは,米国政府を通さずに米国の軍需会社と直接取引ができ,最先端の武器を入手できる。米国の累積援助先はイスラエルが世界で第1位である(注2)。
米国の対イスラエル援助は当初有償無償の軍事援助と経済援助から構成されていたが,キャンプデービッド合意を受けて,1981年以降は全額無償援助となった。1985年以降は,経済援助12億ドル,軍事援助18億ドルの水準を維持した。1999年以降は米の経済援助は毎年1.2億ドルずつ減額され,10年間でゼロにすることとなった。しかし,経済援助の削減分の半額は軍事援助の増額分として振り分けられることとなった。これは,イスラエル側が提案したものである。2008年に経済援助はゼロとなり,軍事援助のみとなったが,その後毎年約30億ドルの軍事援助が2018年まで供与されることになった。つまり10年間で総額300億ドルという巨額さであった。毎年30億ドルの無償援助は米国の一国当たりの援助額では最大規模である。
米国の対イスラエル軍事援助は,全額が年初に供与される。この資金を金融市場で運用することも可能である。さらにこの援助資金は,4分の1以内なら米国製兵器以外にイスラエル製兵器を購入することも認められている。これはイスラエルの軍需産業への事実上の補助金である(注3)。
2018年で旧協定は切れることになっていた。しかし,2016年9月14日,米国政府は,イスラエルに対し2019~28年の10年間で380億ドルに及ぶ史上最大規模の新たな軍事援助を行うと約束した。資金は新型戦闘機・兵器の購入やミサイル防衛網の向上に充てられるという。
軍部に屈服したオバマ大統領
バラク・オバマ政権は,イスラエルがパレスチナ自治区で入植地建設を進めていることに対して批判していたが,中東における米国の地位を保全するためにはイスラエルの存在が不可欠だとの軍部の説得に応じた。オバマは以下の見解を発表した。
「建国から今に至るまで,イスラエルは米国の最大の友人でありパートナーだ。その事実が今日,改めて明確に示された」(注4)。
2008年,この流れを痛烈に批判する著作が米国で大きな反響を巻き起こした。中東における米国の軍事力とイスラエルの軍事力の誇示は,単に米国軍需産業の懐を肥やすだけであって,この地域に反米勢力を増やすだけだという内容である(Mearsheimer, John & Stephen Walt [2008])。
制限字数に達したので続きは次回に。
[注]
- (1)https://www.jimmycarterlibrary.gov/assets/documents/speeches/su80jec.phtml,2021年9月21日にアクセス。
- (2)https://fas.org/sgp/crs/mideast/RL33222.pdf,2021年9月19日にアクセス。
- (3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/merev/5/0/5_Vol.5_134/_html/-char/ja,2021年9月20日にアクセス。
- (4)https://www.afpbb.com/articles/-/3101042,2021年9月20日にアクセス。
[参考文献]
- Mearsheimer, John & Stephen Walt [2008], The Israel Lobby and U.S. Foreign Policy, Farrar Straus & Giroux. 邦訳,ジョン・ミアシャイマー,スティーブン・ウォルト著,副島隆彦訳[2007],『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策(I・II)』講談社。
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