世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
バイデン政権により米国の信頼度が急回復(ASEAN)
(亜細亜大学 特別研究員)
2021.08.02
ASEANの有識者調査の2021年版(注1)によると,米国をグローバルな平和,安全,繁栄とガバナンスに貢献するために正しいことを行う国であると信頼するかという質問に対し,信頼するとする回答が2020年の30.3%から2020年は48.3%に高まった。信頼しないという回答は49.7%から31.3%に減少した。この調査はバイデン氏が当選し大統領に就任した時期(注2)に実施されており,政権交代により米国を信頼するとみる有識者がASEANで増加した。
信頼するという回答が多かったのは,フィリピン62.6%,ベトナム60.6%,信頼するという回答が少なかったのはラオス25.0%,タイ39.0%,ミャンマー39.7%だった。ASEANの親中国家であるカンボジアでは信頼するという回答が46.1%と信頼しないの15.4%を上回っていた。トランプ政権は米国第一主義,保護主義やルール無視の通商政策に加えて,ASEAN関連の首脳会議に欠席するなどASEAN軽視とみられていた。トランプ時代に失った信頼をバイデン政権成立により,かなり取り戻すことができたといえるが,信頼を確実なものにするためには今後のASEANを重視する外交が重要である。
信頼する理由では,米国は巨大な経済力を有しグローバルリーダーシップをとる政治的意思を持つが50.3%ともっと多く,米国の軍事力はグローバルな平和と安全保障の資産であるという回答が26.7%となっている。一方,信頼しない理由では,米国は国内問題に妨げられグローバルな事象と課題に重点的に取り組めないことへの懸念が42.1%,米国の経済・軍事力は我が国の利益と主権を脅かすために使われうるが24.1%だった。
東南アジアで最も経済的な影響力のある国として米国をあげた回答は7.4%,戦略的影響力のある国として米国を挙げた回答は30.4%となっている。経済面の影響力では中国(76.3%)に大きな差をつけられているが,戦略的な影響力では米国はまだプレゼンスは大きい。戦略的なパートナーとして米国を信頼するかという質問については,信頼するという回答が2020年の34.9%から2021年の55.4%に大幅に増加し,信頼しないは47.0%から23.7%に半減した。バイデン政権での米国の東南アジアへの関与は,増加するという回答が68.6%,減少するが6.9%だった。2020年の調査では,米国の東南アジアへの関与は減少するが77.0%,増加するが9.9%であり,バイデン政権への期待は非常に高い。
東南アジアでの米中の競争に対するASEANの対応については,2大国からの圧力を防ぐために強靭性と団結を強化するが53.8%,米中どちらにもつかないという立場を維持するが29.9%となっているが,選択を余儀なくされた場合,どちらを選ぶかという質問については,米国という回答が61.5%,中国が38.5%となった。2020年の調査では米国53.6%,中国46.4%であり,中国を選ぶという回答が多かった国は,ブルネイ,カンボジア,インドネシア,ラオス,マレーシア,ミャンマー,タイの7か国で,米国が多かったのはフィリピン,シンガポール,ベトナムだけだった。
2021年の調査では中国という回答が多かったのは,ブルネイ(69.7%),ラオス(80.0%),ミャンマー(51.9%)の3か国のみとなった。米国を選ぶという回答が最も多い国はフィリピンで86.6%,続いてベトナムが84.0%となっている。その他の4か国は50%台あるいは60%台である。興味深いのは,中国と緊密な政治経済関係を持つカンボジアでも米国を選ぶという回答が53.8%と中国を上回っていることである。カンボジアでは中国の経済力・軍事力が国益と主権の脅威となるという回答が多く(63.6%),中国への過剰な依存への懸念を有識者が持っていることが反映している。
大学の奨学金を提供された場合留学したい(子供を留学させたい)国は,米国がもっと多く29.7%となっている。米国という回答はカンボジアでも26.9%,ラオスでも20.0%と中国よりも圧倒的に多い。2020年の調査では,どの外国語が職業あるいは専門能力のために有用かつ有益かという質問(複数回答)については,英語が95.4%で圧倒的に多かった。中国語は第2位で39.1%だったが,英語を含めて米国はASEANで強いソフトパワーを持つ国であることを示されている。
[注]
- (1)Seah, S. et al., “The State of Southeast Asia: 2021", ASEAN Studies Centre, ISEAS-Yusuf Ishak Institute, Singapore. 16 February 2021. シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS)がASEAN10か国で実施し1,032名が参加した。
- (2)調査実施時期は2020年の11月18日から2021年2月10日である。
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