世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2233
世界経済評論IMPACT No.2233

影響力は最大だが信頼度は最低の中国:2021年ASEAN有識者調査

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員)

2021.07.26

 シンガポールの東南アジア研究所が2019年以降,毎年実施しているASEANの有識者調査の2021年版(注1)は日本のメディアでも紹介されている。この調査は,シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS)が2020年の11月18日から2021年2月10日の期間にASEAN10か国で行い1,032名が参加した。回答言語は,英語に加えインドネシア語とベトナム語が初めて使用され,オンラインで実施された。調査対象者は,研究者,ビジネスとファイナンス関係者,公共部門,社会活動,メディアの5分野に属すASEANの国民でASEANとアジアなど地域についての専門知識を有する専門家である。報告書はこの調査結果を,ASEANの見解を代表するものではないが,ASEAN加盟国の政治経済に関連する地域政策に影響力を有する立場にある有識者の有力な意見であると説明している。このように日本にとっても極めて参考になる報告書であるが,日本では詳しい報告がないので,いくつかの論点について紹介をしたい。

 東南アジアで最も経済的な影響力のある国は中国という回答が76.3%で最大である。米国は7.4%,ASEANが9.8%であり,日本は4.4%である。中国の経済的影響力については,懸念するが72.3%と圧倒的に多く,歓迎するは27.7%である。米国の影響力は懸念するが25.0%,歓迎するが75.0%と中国と全く反対となっている。東南アジアで最も政治および戦略的な影響力のある国も中国という回答が最大で49.1%となっている。続いて,米国が30.4%であり,経済的な影響力ほど差は開いていない。第3位はASEANで14.6%,日本は4位で3.2%である。中国の政治的戦略的影響力については,懸念するが88.6%であり,歓迎するは11.4%に過ぎない。米国は懸念するが36.9%,歓迎するが63.1%であり,経済的影響力に比べ懸念するという回答が多い。

 中国が大国として再び台頭したことについては,中国は現状変更勢力(修正主義勢力)であり東南アジアを影響下に置こうとしているという見方が46.3%でもっと多く,中国は地域のリーダーとして徐々に米国に取って代わるが31.5%「現時点で中国の戦略的意図を決めるのは時期尚早が15.1%である。中国を修正主義勢力とみなす回答が最も多かったのはベトナムで65.1%,続いてフィリピンで59.7%であり,中国と南シナ海の領域紛争に直面している2か国で多かった。

 今後3年間の中国との関係は,現在と変わらないが47.1%で最も多く,改善するが39.8%,悪化するが13.1%だった。国別にみると,改善するが多いのはカンボジア80.8%,ラオス62.5%であり,悪化するが多いのはフィリピン29.9%,ベトナム25.7%である。改善するという回答者に中国の印象を悪化させる要因を聞いたところ(複数回答),中国の自国経済支配と政治的影響力の増加が51.5%,南シナ海とメコン地域における強圧的な対応45.9%,自国の外交政策に対する中国の経済的な手段及び観光の懲罰的な利用33.9%などとなっている。逆に悪化するという回答者に中国との関係を改善する要因について聞いたところ(複数回答),自国の主権の尊重と外交政策を束縛しないことが68.9%,国際法に従った領域紛争の平和的解決が65.9%となっていた。カンボジアは貿易不均衡の是正と主権尊重および外国政策を拘束しないことがともに100%である。

 中国はグローバルな平和,安全,繁栄とガバナンスに貢献するために正しいことを行う国であると信頼できるかという質問については,信頼できないが63.0%,信頼できるが16.5%,ノーコメントが20.5%となっている。信頼できないという回答は2019年51.5%,2020年60.4%であり,年々増加している。信頼できるという回答は,日本67.1%,EU51.0%,米国48.3%,インド19.8%であり,中国が最低である。中国が信頼できない理由は,中国は経済力,軍事力を自国の利益と主権に脅威を与えるために使用しているが51.8%で最も多く,中国を信頼できる国と考えないが24.0%となっている。中国が多額の援助を行いASEANの親中国国家とみなされているカンボジアでも中国を信頼できるという回答は26.9%,ラオスも30.0%となっており,信頼できないという回答のほうがカンボジア42.3%,ラオス47.5%と多くなっている。

 大学の奨学金を提供された場合留学したい(子供を留学させたい)国として中国を選ぶ回答は3.3%と米国の29.7%,英国の19.9%,EUの13.0%,豪州の12.3%,日本の12.4%と比べると少ない。親中国のカンボジアでも中国という回答は3.8%,ラオスも5.0%と少なく,米国が最大である。休日に最も訪問したい国については,中国という回答は2.9%とインドの1.0%に次いで少ない。最大は日本の30.2%である。こうした回答に中国に対する意識や中国についての評価,好悪が表れているといえよう。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2233.html)

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