世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2148
世界経済評論IMPACT No.2148

世界的半導体不足に対する日本政府の動き

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.05.17

TSMCの半導体製造工場の誘致

 菅内閣の日本政府は,3月23日に「半導体戦略検討会議」を新設し,半導体産業の将来像や安定供給に向けた方策を検討し始めた。

 日本政府は,半導体不足の問題で,トランプがTSMCに工場をアメリカに造ってもらおうとしていたので,TSMCに日本に製造工場をつくることを懇願したようだ。しかしTSMCは日本への「製造工場」の誘致を断った。日本政府は,それならばと,「半導体用の素材」を協同開発するための「研究所」を日本に造ってほしいと懇願した。経済産業省はこの「研究所」に900憶円を日本が投入するとまで言っている。

 しかし半導体製造のための「素材」については,既に日本企業が殆どのものを供給しており,高い技術を持っている。TSMCと一緒に研究開発する必要はない。TSMCの素性を考えると,政府のやろうとしていることは日本にとって全くナンセンスなことであり,危険なことでもある。日本の半導体製造のキャパシティを拡大するというのなら,日本のルネサスエレクトロニクスに十分な資本を投下すべきである。

 TSMCは半導体チップの「製造下請け企業」である。TSMCのモリス・チャン自身が言っているように,アップル,クアルコム,エヌビディア,ブロードコムのような電子機器システム商品を開発した会社があったので「受託半導体製造業」ができた。しかし日本にはソニー,任天堂以外には電子機器システム商品の開発会社がないので,TSMCのような半導体製造ビジネスができず,そのために日本半導体製造業は衰退したのだと言っている。

 半導体製造工場は「半導体商品」を造るためのものであり,造るものが無ければ意味がない。また造る半導体の内容によってはその製造装置技術も違ってくる。かつて日本政府は日本半導体産業の拡大のために315億円つぎ込こみ「ASPLA」という「90ナノ半導体製造プロセス」の開発をした。また「日の丸半導体製造工場」の計画を進めたが,しかし日本に製造すべき「半導体商品」が無かったために,これらは失敗に終わった。TSMCは,日本には半導体を製造して欲しいという「顧客」がいないので,日本には製造工場を造らないと言って日本政府の申し入れを断ったのである。TSMCの言うことは理にかなっている。

 日本の政府,経済産業省はこのような事情が全く分かっていないようだ。今日,日本に求められているのは,半導体をどのようにして沢山造るかではなく,半導体を沢山使う「新しい電子機器システム商品」をどのようにして開発するかである。

 日本で新しい電子機器システムが開発され,半導体を製造することになれば,優秀な東京エレクトロンのような日本の半導体製造装置メーカーに半導体製造装置を造らせ,日本に半導体製造工場を造ればよい。

外国の「データ・センター」の誘致

 4月13日に政府は「成長戦略会議」を開き,「デジタル庁」との関連で,「データ・センター」企業を日本に誘致すると発表した。マイクロソフトがマレーシアにデータ・センターを設立すると発表し,GAFAがアジアにデータ・センターをつくろうとしているので,日本政府はこれらの外国企業のデータ・センターを日本に誘致しようというのであろう。マイクロソフトやGAFAは,日本やアジアの膨大なデータを直接吸い込み,それで儲けようとしているのである。

 現在でも日本の個人情報データや産業のデータはアメリカのグーグル,フェイスブック,アマゾン,マイクロソフトなどのサーバーに吸い込まれている。日本人は,アメリカのグーグルの情報検索を使い知識・情報を得ており,アメリカのSNSに動かされて生活している。今度のアメリカ大統領選挙で分かったように,グーグル,フェイスブックなどは彼らの仕組みで情報を操作し,言論を統制し,社会を錯乱させている。AIを使って,他国に人心を惑わす情報を紛れ込ませて,その国の大衆の考え方を変えさせている。これは大変危険なことである。

 過去にも日本年金機構の「データベース」のメンテナンスを中国企業に委託した事件があったが,まだ懲りないで日本のデータベースを他人に預けようとしている。国の「情報安全保障」という点で,日本の自国の「データ・センター」を持ち,重要な日本の情報データをそこで処理し,蓄えなければならない。

 しかし,データ・センターとは「サーバー」という「コンピュータ処理機器」を設置することであるが,これは大変電力を喰うもので,しかも外気の気温が高いと更に電力を喰うし,処理速度が低下する。従って電気料の安いアメリの北部のポートランド,ノースダコダ,ボストンあたりでデータ・センターを持つのが良い。電気料の高い,気温の高い日本にはデータ・センターは適さないので,日本のデータを吸い上げて儲けようという目的以外では,外国のデータ・センターを日本には移さないであろう。言うまでもなく日本のデータは,電気料が高くても日本の「データ・センター」に置いて管理しなければならない。

 日本の政府要人が無知なのかどうか分からないが,政府は国益とはなにか,日本の国の産業を守り,健全な社会としてそう発展させようかとは考えていないようだ。

 しかし,今や安全性の問題とより迅速な情報交換のために,クラウドの「データ・センター」で情報処理するのではなく,電子機器そのものの中で(エッジで)データ処理をする方向に世の中は動き始めている。これによりデータのクラウドへの転送コストが不要になり,データをハッキングされる恐れもなく,電力消費も少なくなる。日本はこれを国として促進しなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2148.html)

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