世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ禍での中長期試算から何が読み取れるか:過去の予測と実績の乖離を示せ
(法政大学経済学部 教授)
2021.03.08
予測や試算は,一定の前提に基づいて推計を行うものであり,推計と実績が乖離する可能性があるのは当然である。しかしながら,イギリスやオーストラリア等では,GDP成長率の予測が実績と乖離した場合には,事後的にその要因分析を行い,モデルや推計方法に関する有識者の意見も取り込みながら,次回以降では乖離が縮小するための仕組みが存在する。例えば,イギリスの財政責任庁(OBR)では,GDPの潜在成長率に関する過去の予測と実績を報告書の中で明らかにしている。
では,日本はどうか。残念ながら,イギリス等とは異なり,日本では予測と実績の乖離に関する要因分析や事後検証を基本的にしておらず,そのような情報の公開もない。
例えば,日本において政府が示す試算の中で最も重要なものの一つは,中長期的な財政の姿を把握するため,内閣府が定期的(概ね7月と1月)に公表する「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)であろう。
政府は2025年度までに国・地方の基礎的財政収支(PB)を黒字化する目標を掲げているが,中長期試算が重要な理由は,その目標の達成状況を把握する手段の一つとなっているからである。だが,その重要性にもかかわらず,中長期試算では,目標達成の把握のコアとなる債務残高や基礎的財政収支の予測の精度を高める仕組みが存在しない。
先般(2021年1月21日),経済財政諮問会議にて内閣府が公表したものが最新版の中長期試算だが,今回の試算でも,国・地方の公債等残高(対GDP)が縮小していく予測になっているが,これも疑問が多い。中長期試算において,過去(ここ数年)の予測では公債等残高(対GDP)は常に縮小していくと推計していたが,いずれも予測は外れており,公債等残高(対GDP)の実績は増加の一途をたどっている。
このような問題は,基礎的財政収支(PB)の予測でも表れている。今回の試算で特徴的だったのは,コロナ禍にもかかわらず,その影響は限定的であり,従前の試算と比較しても,財政状況の見通しに大きな変化がない姿になっていることだ。これは,にわかには信じがたい試算である。
なぜならば,今回のコロナ対策で政府は巨額の財政赤字を計上したためだ。2020年度における国の当初予算(一般会計)は約100.8兆円であったが,第3次補正予算までの編成があり,歳出合計は175.7兆円に膨張した。その結果,2020年度における国・地方の財政赤字は75.7兆円にまで拡大した。当初の予測は22.1兆円であるから,その約3.4倍だ。
コロナ禍でこれから厳しい財政状況が予想される今こそ,政府は正確な情報を国民に提供し,中長期試算の信頼性を高めていく仕組みが求められる。
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