世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1880
世界経済評論IMPACT No.1880

ダブルショック下のASEAN経済統合とRCEP

清水一史

(九州大学大学院 教授)

2020.09.14

 保護主義の拡大とコロナウイルス感染拡大のダブルショックによって,現代世界経済はきわめて厳しい状況にある。この状況下,8月下旬に第52回ASEAN経済相会合と一連の会合,そして第8回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合が,オンラインで開催された。

 コロナウイルスは,依然,猛威を振るっている。米中貿易摩擦と保護主義は,ハイテク産業を巡る覇権争いもあり収まらない。更に米中対立は,南シナ海問題を含め政治安全保障分野に及ぶ大きな問題となっている。それらは,ASEANと東アジアにも大きな負の影響を与えている。とりわけ貿易と投資の縮小は,貿易と投資の急速な拡大の中で成長してきたASEANと東アジアに,大きな負の影響を与えている。

 このような危機の時にこそ,そして危機後にこそ,地域協力と統合が必要である。コロナウイルスに対しては,ASEANは「ASEAN COVID-19対策基金」を設立し,また11月の首脳会議に向けて「包括的リカバリープラン」を作成している。

 そしてこの状況下で,経済統合は更に重要となる。ASEANは東アジアで最も深化した経済統合である。2015年にはASEAN経済共同体(AEC)を創設し,現在はAEC2025に向けて,地道に経済統合を深化させている。物品貿易の自由化では,2015年1月にCLMV諸国の一部例外を除き全加盟国で関税が撤廃された。2018年1月には,CLMV諸国の猶予部分をも含めて全加盟国による関税撤廃が完了した。更に自己証明制度の導入,税関業務の円滑化,ASEANシングルウインドウ(ASW),基準認証等が進められている。またサービス貿易の自由化,投資や資本の移動の自由化,熟練労働力の移動の自由化が進められてきている。輸送プロジェクトやエネルギープロジェクト,知的財産権,経済格差の是正,電子商取引等の取り組みも進められている。

 8月25日の第52回ASEAN経済相会合(AEM)は,コロナウイルスによる経済への影響の確認とともに,現在のAEC2025の進捗状況を確認した。たとえば,物品貿易では,9月20日から原産地の自己証明制度がASEAN全体で導入される。原産地証明の手続きが一元化し,かつ容易になった。貿易円滑化や税関手続きでは,認定輸出者制度(AEO)が進められ,またASEANシングルウインドウによる電子申請がASEAN10カ国で開始されている。基準認証では,自動車の形式認証に関する相互認証(MRA)交渉が妥結し署名待ちである。サービス貿易では,これまでのASEANサービス枠組み協定(AFAS)を発展させたASEANサービス貿易協定(ATISA)の2020年内の署名を目指している。投資でも,ASEAN包括的投資協定(ACIA)を深堀りする改訂議定書が,第4次まで署名されている。競争政策,消費者保護,知財権,電子商取引等も進められている。RCEPの年内の署名を目指すことも確認した。

 一連の会議の中で,8月27日には第8回RCEP閣僚会合も開催された。RCEPはそもそもASEANが提案したメガFTAであり,ASEANが交渉を牽引してきている。RCEP閣僚会合では,現在進行中の不確実な状況下でのRCEPの重要性を確認し,11月の首脳会議での署名を目指すことを確認した。

 2019年に交渉が妥結出来なかった要因となったインドは,今回の閣僚会議も欠席した。RCEPにインドが入っている意味は大きく,RCEPはインドが入る16カ国による妥結がベストである。しかし2011年に提案されたRCEPが,このまま実現ぜずに漂流してしまってはならない。コロナと保護主義の下で,東アジアのメガFTAが出来る意味は大きい。先ずは可能な15か国から始める可能性もあるだろう。ただしその際には,インドがいつでも戻れる仕組みにしておく事が肝要であろう。

 コロナと保護主義の拡大下で,ASEANとRCEPの重要性は増している。そしてCPTPP,RCEP,日本EU・EPAの3つのメガFTAを進めて保護主義に対抗する日本の役割は大きい。日本がASEANと連携する事も必須である。

 11月には,ASEAN首脳会議とRCEP首脳会議が開催される。11月の両首脳会合を注目したい。また11月には,アメリカ大統領選も行われる。11月は,ASEANと東アジアの今後に向けて重要な節目となるであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1880.html)

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