世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1633
世界経済評論IMPACT No.1633

日本の独自性を発揮した経営が経済を再生する

三輪晴治

(エアノスジャパン 代表取締役)

2020.02.24

台湾人の意見

 台湾の李登輝氏の旧制台北高校同窓の二人の方に聞いたことがある。この方たちは,台湾の戦前の日本統治時代と戦後の日本の経済発展を見て,日本社会,日本産業の強さを理解し,そして日本人を大変尊敬していた。台湾の人は,日本の強みは「日本精神」にあると見ていた。日本精神とは,「規律正しさ」,「清潔さ」,「正義感」,「冒険心」であるという。武士道の精神ともいえる。これにより戦前の日本人は台湾での産業活動も,教育も,インフラ構築も台湾にとって大変良いことをしてくれたと言っていた。しかし,この方によると,最近の日本人は「正義感」,「冒険心」が無くなっているという。

本当の企業競争力

 本来の産業活動,産業競争とは,分業の理念で,競争者がそれぞれ自分独自のやり方で差別化をした商品,技術を開発して,それを交換しながら経済を拡大するものである。つまり人と違った商品を造り,互いにそれを市場で交換するのである。今日ではグローバル化の行き過ぎの中で,多くの企業は同じものを造り,そのコスト切り下げ競争をしている。これでは産業が疲弊し,経済が衰退し,国民は貧しくなる。現在では独占企業が,資本力とマーケティング力で世界の市場を洗脳し,世界の人に同じ商品を押し付けている。世界中をマクドナルド化し,世界中をマイクロソフト化し,世界中をアマゾン化,グーグル化している。世界中の人に同じ商品を買わせ,地域の持っている文化,歴史を破壊している。

 世界にはいろいろの地域でいろいろの民族が住み,いろいろの歴史と文化,生活習慣を持っている。いろいろの歴史と文化を持ったいろいろの違った商品,技術が,世界の人々を豊かにするのである。

 商品でも技術でも,その国,地域の文化,歴史,生活習慣の中で生まれたものが優れた商品,技術として,普及することになる。ドイツ的なプロフェッショナルな商品,フランス的なエレガントな商品,日本的な繊細な商品,アメリカ的な実利的商品がでて,世界の人がそれぞれそれを好みにより商品を選ぶ。かつてGMなどが「ワールドカー」というコンセプトで自動車を開発したが,全部失敗している。誰も,抽象的な,宇宙人が使うような商品は好まない。一時アメリカでトヨタの車は個性がないと言われたことがあった。グローバル化で,同じ世界商品を追っかけ,コストを下げて競うと全員がおかしくなる。

 分業そして国際分業の考えで,他とは違った,個性をもった商品で,競争するのであり,これが資本主義経済での活動である。それには欧米とは違った「日本的経営」を再構築して,ナンバーワン経営ではなく,差別化による「オンリーワン経営」で日本経済を再生しなければならない。

経営者の育成と「日本的経営」の再構築

 日本にも,社会に貢献し,経済発展をドライブした企業には名経営者がいた。このような経営者は崇高なビジョンをもち,ロマンに燃え,社会に役立つ新しい産業を創造したものである。勿論「そろばん」も持っていた。松下幸之助,本田宗一郎,井深大,稲盛和夫などの経営者が日本産業を発展させた。ソニーの井深氏は「自由闊達にして,愉快なる理想工場の建設」を社是として,多くの有能な社員を創り上げ,企業を発展させた。私心のない,高い志とロマンと冒険心を持った経営者が必要である。銭儲けができるだけの経営者ではない。

 企業における経営者の役割は極めて重要である。経営者の良し悪しにより企業は発展したり,衰退,倒産もする。今だけ,金だけ,自分だけの経営者であってはならない。ある調査によると,日本の中小企業で,社員を大切にし,地域社会に貢献する社是を持った企業は利益も上がり,伸びているという。国も国民が豊かになれば経済は成長する。国民が貧困化している国の経済は発展することはない。

 社員全員が存分に仕事に打ち込め,その能力を100%破棄できるような「日本的経営」を再構築しなければならない。勿論1970年代の「日本的経営」にそのまま戻るのではなく,21世紀のデジタル時代をベースにした新しい仕組みにして,諸外国とは違う独自の競争力,独自の「日本的経営」を再構築しなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1633.html)

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