世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1562

中国経済減速:困るのは彼らより我々かも

榎本裕洋

(丸紅経済研究所 チーフエコノミスト)

2019.12.09

 年末なので来年以降の世界経済を考えるべく,内外を問わず海外経済に詳しい方々との面談を続けている。その中で筆者は世界的な低成長(具体的にはIMFが発表する世界経済成長率が3%台前半にとどまる状態)が構造的な現象なのでは,という思いを強めている。以下いくつか気づいたことを挙げていきたい。

 第1に21世紀に入ってから今日までの世界経済は「たまたま幸運に恵まれた」だけかもしれないという点だ。IMFの統計によれば,2000-2009年の世界経済成長率の平均は3.9%,2010-2018年は同3.8%と高い。そして世界経済成長率に対する寄与度を計算すると,これらの高成長に最も寄与したのは他でもない中国である。そして(グラフを掲載できれば分かりやすいのだが)中国の世界経済に対する寄与度がコンスタントに米国のそれを上回り始めた年が正に2001年なのだ。つまり2001年は20世紀経済を牽引した米国が,21世紀経済を牽引するとされる中国に,「円滑に」バトンタッチした記念すべき年なのだ。しかし近い将来,次のバトンタッチは期待できない。IMFは2024年までの世界経済を予測しているが,中国経済が構造的に減速する一方,その後継者となるべき成長国は見当たらない。ポスト中国の筆頭であるインドも,IMF世界経済見通しによれば,2024年でもその世界経済への寄与度は0.70%と同年の中国の1.18%を下回ったままだ。因みに2018年の米国・ユーロ圏・日本の世界経済への寄与度はそれぞれ0.44%,0.23%,0.03%とお話にならない。つまり21世紀初頭の世界経済は,米国から中国への幸運なバトンタッチに恵まれただけで,その中国がバトンを渡すべき相手は未だに見えない。

 第2に世界経済のエンジンは米中だ,とよく言われるが,最大のエンジンは中国だということだ。4大経済圏である米国・中国・ユーロ圏・日本の2001年1-3月期から2019年4-6月期までの実質GDP成長率(前年比)データを使ってグレンジャー因果検定を実施したところ,(いずれも1%有意で)米国がユーロ圏・日本の成長率に影響を与えているのに対し,中国は米国・ユーロ圏・日本いずれの成長率にも影響を与えている。つまり米国経済が減速しても中国に与える影響は小さいが,中国経済が減速すると米国経済は影響を受け,そこからユーロ圏・日本も影響を受けるということになる(加えてユーロ圏・日本は中国経済減速の直接の影響も受ける)。現在は中国経済が構造的に減速しているので,世界経済への下押し圧力も構造的ということになる。

 第3に「中国がくしゃみをすれば,世界は風邪をひく」という点だ。我々は中国経済の減速を横目で見ながら,「中国経済の減速は確かに世界経済にとって好ましくないが,中国が困っているほど我々は困らないだろう」などと思っていないだろうか。しかしいわゆる「自力更生(他人に頼らず自力で物事を行うこと)」を掲げる中国政府は,景気が減速する中でも,従来は輸入に頼っていた製造機器やブランド品を国産化する努力を怠っていない。その結果,2019年上半期の中国経済は前年比+6.3%と減速したが,同期間中の日本からの輸入は(日本財務省貿易統計の月次データを単純平均すれば)数量ベースで前年比▲9.9%と大幅に減少している。従ってもし中国経済が5%台に減速した場合,日本から中国への輸入はもっと減少する可能性があるという点には留意が必要だ。困るのは彼らより我々かもしれない。

 来年以降これら構造変化への対応が必要になる我々こそ,頭の中の構造改革が必要かもしれない。

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榎本裕洋

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