世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1538
世界経済評論IMPACT No.1538

国際競争力強化のための女性登用

茂木 創

(拓殖大学国際学部 教授)

2019.11.11

 日本経済にとって,女性が活躍できる社会への体質改善は今や待ったなしの状況にある。令和元年8月に文部科学省が公表した「学校基本調査(速報値)」によれば,高等教育機関進学率は82.6%(うち,大学・短大進学率は58.1%,大学(学部)進学率は53.7%,専門学校進学率は23.6%)と過去最高を記録した。21世紀生まれの約6割が大学や短大に進学していることになる。中でも女子学生の進学率は上昇し続け,大学(学部)在籍者の45.4%は女子学生である。30年前の約3倍である。学部によるばらつきはあるものの,筆者の所属する国際学部は6割以上が女子学生である。

 大学の教壇に立ったことのある者ならば一様に気が付くことだが,前列に席を取り,熱心に耳を傾ける学生は圧倒的に女子学生である。海外研修や留学・語学検定試験への取り組み,他大学との討論会の企画など,様々な場面で女子学生が活躍している。

 企業の採用人事担当との話をすると,きまって『採用試験や面接をすると女子学生が上位を占めちゃうんですよね』という話題が上る。もちろん,それは『男子学生に対して,もっとはっぱをかけてくださいよ,先生』という意味なのだが,教えている人間としては『さもありなん』という思いである。就職情報会社マイナビの「2020年卒大学生就職内定率調査」によれば,2019年8月末までの就職内定率は82.6%だったが,理系(男子:87.1%,女子:88.8%),文系(男子:78.7%,女子:80.4%)ともに女子が男子を上回る結果となっている。学内で学生に将来どのような職業に就きたいかを尋ねてみても,明確な回答が出るのは女子学生である。女子学生の方がキャリアデザインを意識しているケースが多い。

 多くの専門家が指摘するように,女子学生が男子学生に比べて目標を明確にして修学に努める傾向が強いのは,総合職のハードルの高さにも起因している。1999年に男女雇用機会均等法が改正され,募集・採用,配置,昇進の男女差別が禁止されたことによって,女子学生の大学進学率は上昇したもの,現実的には,女性の総合職への登用は男子に比べて厳しいのが現状である。

 日本では有能な女子学生が社会でその能力を存分に発揮できない―。もし,それが本当であれば,これはわが国の国際競争力を考える上で極めて憂慮すべき事態と言わざるを得ない。

 2019年3月,国際労働機関(ILO)は,2018年に世界の管理職に占める女性の割合は27.1%だったのに対し,日本は12%と主要7カ国(G7)で最下位であり,わが国における労働市場の女性への閉鎖性を指摘した。また,同年6月に国際経営開発研究所(IMD)発表した「世界競争力年鑑」によれば,日本の国際競争力は過去最低の30位(/63カ国・地域)に後退したが,その理由は,生産性や効率性の低さ,労働市場の閉鎖性が挙げられるという。さらに同年10月に世界経済フォーラム(WEF)が公表した2019年版の「世界競争力報告」でも,わが国の国際競争力が順位を下げた理由として,労働市場の硬直性や,女性の労働参加が不十分であることが指摘された(なおWWFによる順位は昨年から1ランク下げ,6位(/141カ国・地域)にとどまった)。こうした事例からもわかるように,世界は,日本がまだまだ女性が活躍しにくい社会であるとみているのである。

 いうまでもなく,経済成長をけん引する原動力は,生産性(技術),資本,労働である。少子高齢社会を迎えたわが国においては,総数としての労働は減少を余儀なくされている。しかし,女性の社会進出が進めば,それは実質的な労働増につながる。また,女性の社会参画によって生産性が改善されるならば,ひいては経済成長にプラスに作用することも期待される。

 実際,有能な女性社員を確保すべく,官民挙げた様々な取り組みが現在進行中である。民間においては,主に金融機関を中心として総合職と一般職・専門職の区分を廃止する動きが加速しており,政府も2019年5月に女性活躍推進法を成立させ,企業の積極的な女性登用や管理職における女性比率の改善を促している。

 しかし,忘れてはならなのは,単純に「形式的に」女性の採用比率を引き上げるような方法では,生産性や効率性が必ずしも改善されるわけではないという点である。冒頭に述べたように,確かに有能な女子学生が増加しているが,これは狭き社会の門を突破しよう,競争に打ち勝とうという女子学生の不断の努力の結果である。仮に,(男女雇用機会均等法上,あってはらないことであるが)「形式的に」女性の採用枠を増やしたとしても,企業の成長や国際競争力が改善される可能性は極めて少ない。性差を越え,能力の観点から競争することによってのみ,世界から評価される生産性や効率性が実現され,国際競争力の改善に資する労働が生み出されることを忘れてはならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1538.html)

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