世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1478

変わらないトルコの民主主義の危機

並木宜史

(ジャーナリスト norifumi.namiki@gmail.com)

2019.09.09

 トルコはまたしても少数民族の迫害と,民意を蔑ろにする暴挙に出た。先月19日,トルコ内相は突如,アメド(ディヤルバクル),マルディン,ワンの市長を解任すると発表した。彼らはクルド人の支持を受ける人民民主党(HDP)に所属しており,今年3月のトルコ統一地方選にて民主的手続きを経て選ばれた。解任理由は市長たちが「テロ組織のメンバーである」「テロ組織のプロパガンダの拡散した」というだけで,具体的にどの事案が容疑に該当したのか明らかにしていない。市長が解任された街々を中心にクルド人地域各地で抗議運動の嵐が吹き荒れた。日本でも先月25日,東京渋谷の国連大学前で在日クルド人による抗議集会が実施された。

 トルコに民主主義が復活しつつあるという甘い希望は打ち砕かれた。今年3月末の統一地方選で野党が躍進し,特にイスタンブール市長選では野党候補が与党の抗議でなされた6月やり直し選挙含め2回も勝利した。最大野党共和人民党(CHP)代表は,民主主義を取り戻すための国民投票を実施すべきだと勢いづいていた。こうしてトルコには民主主義がまだ生きているという願望が情勢分析の体裁をとって噴出してきた。日本でも共産党が野党共闘の成果だと結果を評価した。エルドアンがやり直し選挙の結果を受け入れたのは,彼が民主主義に回帰したからではなく一旦妥協することで野党を油断させるために過ぎなかった。昨今のトルコの状況は益々政府をしてより強大な権力を欲せしめている。経済成長率は相変わらずマイナスで,トルコリラの対ドル為替はもはやアメリカとの対立激化時に下落した水準が常態となっている。元首相のアーメット・ダウトールがエルドアンの身内贔屓への党内の不満を背景に,新党立ち上げを公言し始めたことで党内にも分裂危機を抱えている。エルドアンは明らかに国内のクルド人をやり玉に上げることで政治経済的不満をそらす必要に迫られている。

 トルコの民主主義の危機はトルコ国内に留まらない。トルコで民主主義の危機が騒がれるようになってから明らかに対外膨張の度合いを強めている。トルコでクーデター騒動が発生した2016年7月15日から約1ヶ月後の8月24日にはシリア領侵攻作戦「ユーフラテスの盾」を発動した。トルコはイスラム国全盛期の2014年にはこのような作戦に打って出ることはなかったのにである。イスラム国掃討を勧めていたクルド人主導のシリア民主軍(QSD)が同時期に要衝マンビジュを解放しており,トルコが侵攻したジャラブルスからアルバーブに至る地域の解放も時間の問題であった。イスラム国掃討を名目にしたシリア侵略の始まりであった。ギリシャやキプロスの排他的経済水域を侵す東地中海のガス田開発も大きな火種だ。トルコはギリシャの領空侵犯を繰り返し行い軍事挑発を継続している。欧米の再三の中止要請に関わらず東地中海から退くことはないと強気の姿勢を崩さない。アメリカはギリシャの防衛力増強とキプロスへの武器支援に乗り出している。シリア内戦が終結に向かいつつあることと歩調を合わせるようにトルコの危機は深化している。中東の危機はまだ始まったばかりなのだ。

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