世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1306

アジア・ミレニアル世代のプレゼンス拡大とダイナミズム

平田 潤

(桜美林大学 教授)

2019.03.11

 世界の成長センターであるアジアでは,a.改革開放以来急成長を続け,2001年のWT0加盟を経て今や米国に次ぐ経済大国化した中国を筆頭に,b.アジア通貨危機(1997年)を克服し,再び発展を続けるASEAN諸国,さらに,c.90年代以降高成長軌道に乗ったインド,といった国々が,①グローバル経済における製造/輸出拠点の一大集積地,②ICT革命の中核であるデジタル機器(ハード・ソフト)生産ネットワークで重要な地位を確立した,など,そのプレゼンスが着実に拡大している。加えてリーマンショック(2008年)前後から,③パワーアップ著しい中国ネット企業の大手(アリババ集団を筆頭とする所謂B・A・T/J各社=B〔百度〕・A〔アリババ〕・T/J〔テンセント〕は,米国のICT巨大企業である通称GAFA社にも急速にキャッチアップしつつある)を筆頭に,イノベーションやクリエーションを加速しており,さらに,④アジア各国の国民所得増加に伴う需要(マーケット)・消費が堅調に拡大するなど,その成長活力は一層高まりつつある。

 同時にアジア各国・地域の成長と発展は,都市部と農村部や地域による格差が大きい,各種のセーフティネットがぜい弱である,といった構造問題を抱えるとはいえ,かつての輸出依存型の成長から徐々に脱しつつある。もちろん先進国の金融超緩和によりグローバルに拡大したマネーの巻き戻しや,米・中貿易対立に伴う混迷など,不確実性の高まりは予断を許さないにしても,先進国経済の動向に大きく左右される度合いは漸減傾向にある。そして拡大する中間層が国内需要創出を下支えし始めた。しかも中国はもとよりASEAN諸国等アジアからの海外旅行者は順調に増大している(日本のインバウンド客急増に貢献していることはいうまでもない)。

 これはリーマンショック(2008年)やギリシャ危機(2010年)以降,経済の低迷・低空飛行が続くなかで中間層の解体/下方シフトが進行する欧米各国,中でも統合に伴うグローバル活力を喪い,離脱問題(英国Brexit)やナショナル・ポピュリズムに揺れるEUとは対照的であると言わざるを得ないであろう。

 こうした経済的成果の達成に貢献している当事者かつ受益者として,プレゼンスが注目されつつあるのが,当初からネットやスマホなどのICT機器を縦横に駆使する「デジタルネイティブ」,即ちアジアの「ミレニアル世代」である。「ミレニアル世代」の定義には様々あるが,1980年代に生まれた世代(第一世代),90年代に生まれた世代(第二世代)の総称,もしくは2000年代初頭に誕生した世代(この場合ポストミレニアルとも呼ばれる)を指している,とされる。

 中国では,ミレニアル第一世代が約2.2億人,第二世代が約2.1億人にのぼると推定される。

 また国連の推計(2017年)ではASEANの15〜34歳人口は2.1億人に達した(JETRO,「東南アジアの消費を担うミレニアル世代」2017年)

 こうしたミレニアル世代は,主にスマホ等モバイル機器でネットに繋がり,情報入手からコミュニケーション,消費からビジネス,エンターテインメントまでグローバルにこなす新たなライフスタイルを追求している。

 なかでもその筆頭的存在は,中国で通称「海亀族」(米国等留学からの帰国者,2010年代に急増し150万人以上が帰国。ICT分野をはじめとする貴重なノウハウを生かし中国で起業,あるいはB・A・T/J社や他の国営企業においてハイテク技術分野を支える優秀な人材として活躍している)と呼ばれ,深圳等を拠点として各種イノベーションを推し進め,手厚い中国政府の支援と多層な「ものづくり」ネットワークとの相乗効果から,現在では米国のシリコンバレーに匹敵する成長センターを創り上げつつある「ミレニアル・エリート」であろう。

 ICT企業等のスタートアップから短い間に多数企業がユニコーン企業(評価額が10億$超)に成長するなど,その勢いは驚異的である。このエリート世代はそのメンタリティや指向するライフスタイルにおいて,欧米等の先進国若者層と同世代人として,かなり共通する点が指摘される。

 またアジア地域で大宗を占める,一般的な若者を中心とした「ミレニアル世代(「ミレニアル・コモンズ」)は,その消費行動が以下①〜④で,様々に注目される存在である。

  • ①Eコマースのヘビーユーザー:中国をはじめとして,ミレニアル世代によるネット消費の増加は著しい。とくに中国の場合はAlipayやWechatpayといった利便性の高いE決済(スマホ決済,キャッシュレス)利用を背景として,同国個人消費の大きな柱となりつつある。
  • ②SNSがライフスタイル:ネットそして各種SNSを頻繁に使用し,コミュニケーション/情報取得/人脈の形成〔繋がり〕手段として大きく依存しており,欠くことができないライフスタイルの一部となっている。
  • ③同時代的な指向性:グローバル化するスポーツ・ファッション・サブカルチャー・エンターテインメントの支持層として共通するメンタリティ・エネルギーを持つ。またユーチューバ―やインスタ映えといったグローバルで共通な指向感性も見られる。
  • ④新たな消費・マーケット追求の主役:ミレニアル世代は,その前の世代に比べると,必需消費から選択消費,価格・量からこだわり・質へといった消費性向が指摘される。また様々に能動的な消費(消費行動や海外旅行で新たな付加価値「コト消費や体験観光」を追求する)傾向がある。

 もちろんアジア諸国の暗部(農村部/都市部に根強く存在する貧困,民族・部族間の紛争,非近代的制度や封建的な慣習,政治社会の不安定性など)を背景に,ミレニアル世代内での各種格差(とくに教育・所得格差,機会の非均等)は急激に拡大している(「ミレニアム・ビハインド」)。

 とはいえ,現在の所,経済が順調に成長しその成果の分配が増して,所得や雇用が拡大し続けるなかでは,アジアのミレニアル世代のプレゼンスはさらに上昇し,これに伴ってその自己主張も高まっていくと思われる。

 一方社会保障等セーフティネット拡充の速度が,成長発展に十分見合っていないアジア諸国では,今後仮に深刻な景気後退に直面した場合,ミレニアル世代(特に「ミレニアル・ビハインド」層)の蒙るダメージはかなり厳しいものとならざるを得ない。その場合「アジアミレニアル世代」の「危機対応能力」は試練を受けることになろう。さらに成長局面が続く中ではかなり抑制されている,同世代が潜在的に持つ「ポリティカル・ダイナミズム」のベクトルがどこに向かうのか,今後も注視したい。

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平田 潤

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