世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1190
世界経済評論IMPACT No.1190

オスロのEV普及策

川野祐司

(東洋大学経済学部 教授)

2018.10.22

EV(電気自動車)輸入大国ノルウェー

 JETROが公表した『ジェトロ世界貿易投資報告2018』によると,2017年の電気自動車輸出国の上位3カ国はアメリカ,ドイツ,オランダであり,輸入上位3カ国はノルウェー,中国,ドイツだった。ノルウェーは中国とともに,世界の輸入シェアの約20%を占めている。ノルウェーはヨーロッパ最大の産油国であり,原油や天然ガスを多く輸出しているものの,国内の電力はほぼ全量が再生可能エネルギー(約96%が水力)で賄われており,輸送部門での温室効果ガス削減が次のターゲットとなっている。

 Statistics Norwayによると,ノルウェーでの2017年の新車販売台数に占めるEVの比率は20.8%,プラグインハイブリッド車(PHV)を含めると39.2%に達する。2017年末時点では,ノルウェーの乗用車登録台数272万台のうち,EVは14万台と普及率は5%に過ぎないが,2010年にはわずか3000台だったノルウェーのEVは2018年末までには17万台(PHVを含めると26万台)となる見込みであり,急速に増えつつある。

EV普及で先行するオスロ

 筆者は2018年8月にオスロを訪ねたが,EVの多さを実感した。筆者の肌感覚ではオスロ中心部のEV普及率は10%を超えていた。テスラが最も多かったが,日産(リーフ)もよく見かけた。その他には,BMW,VW,ルノー,KIAなどのEVも見かけた。一方で,トヨタなどのPHVはあまり見なかった(ミライを1台だけ見た)。

 2017年末時点でのオスロの乗用車登録台数29万台のうち2万5000台がEVになっており,普及率が10%に近づいている。HVも含めると3万5000台を超えており,すでに一定のシェアを獲得している。今後も普及が進んでいくだろう。

 その他の都市ではEVを見かける頻度は少なかった。ノルウェー第2の都市ベルゲンでもテスラや日産を見かけたがほんのわずかだった。第3の都市,北部のトロムソではほとんどがディーゼル車で市内中心部の空気はかなり汚れていた。EVはノルウェー全体で均一に広がっているわけではなく,普及はオスロ県やアーケスフース県など南部の地域に集中しているようだ。

オスロのEV普及策

 オスロではEVに対して,付加価値税の免除,橋やトンネルなどの有料道路の無料化,市内駐車場の無料化,バスレーンの走行許可,公共フェリーの料金無料化などの優遇措置を実施している。ノルウェーの付加価値税率は25%であり,付加価値税の免除はかなり大きな経済的インセンティブとなる。また,ノルウェーは物価が高く(500mlのペットボトルの水はコンビニで約350円),駐車場代などの無料化はランニングコストを大きく低下させる。大気汚染によって市民の認知能力が低下するとの研究が話題を集めているが,EVの普及は気候変動問題だけでなく,市民の健康問題も改善する。市民がより身近な問題だとみなせば政策への支持も増える。

 日本でのEV普及が進まない理由は人口や経済規模ではない。日本よりも10倍も人口が多い中国はEV輸入第2位であり,様々な分野で急速な変化が生じている。日本での最大の障害は変化を嫌うマインドにあるだろう。新しい社会を築こうとする意思が欠けていることが問題だ。

 EVの普及には,魅力的なクルマも欠かせない。テスラを除くとほとんどのEVはコンパクトカーのカテゴリーに属する。EVを購入できる層は環境問題などへの意識が高く,所得も高い傾向にある。彼らが満足するような高級感のあるセダンを探そうとするとテスラしか選択肢がない。筆者もオスロ空港に展示されているテスラを見たが,ガルウイングが搭載された高級感の溢れる車だった。幅広いカテゴリーでの車種展開が欠かせない。

さらに先を行くオスロの環境政策

 ヨーロッパの他の都市でもEV優遇策が導入されつつある。ドイツのハンブルクでも市内中心部の一部区間ではEVのみが走行できる。現在は対象範囲が非常に狭く象徴的な意味合いしかないが,今後は同様の政策が広がっていくだろう。変化は時に急速に進んでいく。現状を前提とした漸進的な企業戦略では将来像を描くことはできないだろう。

 EV普及策はオスロの環境政策の一環だが,現在は3分の2がディーゼル燃料で運行している市バスを2020年までに全てバイオガスなどの再生可能エネルギーで走らせる施策も進めている。パーク&ライド政策も進めているが,市内中心部の公共駐車場の撤去も始まっている。2017年には市内中心部で300台分の駐車場を撤去し,2019年までには合計で700台分の駐車スペースを撤去する予定となっている。EVであれば市内中心部を走ってもよいという政策を進めると同時に,たとえEVであっても市内中心部への車の乗り入れを許さない政策も進めている。撤去された駐車スペースは歩道の拡張に転用され,カフェや店舗の利用も認めることで市街地の魅力を高めようとしている。日本でも参考になる点が大いにあるように思われる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1190.html)

関連記事

川野祐司

最新のコラム