世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1001

シェールオイル開発の死角とは

福田佳之

((株)東レ経営研究所 シニアエコノミスト)

2018.01.29

原油価格が上昇

 最近,原油価格(WTI)は上昇して1バレル60ドル台に突入している。中東などでの地政学的緊張やパイプライン事故をきっかけとするものであるが,OPECなど主要産油国の減産継続が世界の原油供給をようやく減らして需給を引き締めるとの観測が強まってきたことが背景にあると言ってよい。

 一方,これまでパーミアンを中心とする米国のシェールオイルの産地が2017年に入って増産しており,油価上昇を妨げてきた。原油価格が50ドル台でも開発企業がシェールオイルを増産できた理由として,彼らの生産性改善とコスト削減への取り組みが奏功してきたことがある。

 今後,原油市場は需給均衡に動き,原油価格は本格的に上昇するのか,それともシェールオイルの増産が進展して需給は再び緩んで油価は下落するのか。そのカギは短期的にはシェールオイルの生産余力の有無,中期的には生産性改善の持続性にある。

DUC井にある「在庫」は潤沢

 EIAの「Drilling Productivity Report」統計は,掘削済みだが水圧破砕などの処理をせず完成していない(Drilled but UnComplete: DUC)井戸の数値を明らかにしている。同数値は掘削工程の途中段階のものを示すだけでなく,意図的に掘削だけでとどめているものも含まれる。

 DUC井戸は水圧破砕をするだけでシェールオイル等が回収できる状況にあり,開発企業はDUC井戸をシェールオイルが貯蔵されている倉庫,いわば「在庫」のように扱うことができる。つまり,開発企業は油価の動向を見ながら掘削した井戸をそのままDUC井戸にしてシェールオイルやガスの供給を絞ったり,もしくは手元にあるDUC井戸に直ちに水圧破砕をかけてシェールオイルやシェールガスを迅速に供給したりすることができる。

 2015年以降,2017年11月までのDUC井戸の累計は主要5産地合計2,671井に上る。直近6カ月の新規油井当たりのシェールオイル日量生産量を掛け合わせて,いわゆる「在庫」の規模を試算すると,日量158万バレルに上る。実際にはインフラ制約などによって,生産余力そのまま増産できるとは考えにくいものの,シェールオイルが生産余力を持つことは確かと言える。

 したがって,短期的には原油需給が引き締まったり,地政学的緊張等が発生したりして原油価格が上昇したとしても,DUC井からのシェールオイルの供給がいずれ増加して原油価格は低下して50ドル台まで戻るか,もしくはさらに低下(オーバーシュート)するだろう。

中期的には増産継続が困難か

 シェール開発企業の生産性改善への取り組みは,①掘削段階,②油井決定段階,③原油生産段階においてそれぞれ行われている。注目すべきはビッグデータを用いたAI(Artificial Intelligence: 人工知能)などコンピュータによる解析技術である。掘削ドリルなどに取り付けられたセンサーから大量の地層データ等を収集・解析することで,迅速かつ効率的な原油生産が可能になった。

 稼働する一リグ当たり新規原油生産量は2014年から17年にかけて倍増を上回る伸びとなり,シェールオイル開発の生産性は著しく改善した。その内訳について分析すると,効果的な水圧破砕など原油生産段階(上記③)における取り組みが生産性改善に大きく貢献したことがわかる。

 一方,油井決定段階(上記②)において実際に生産している油井のシェアが低下した。高生産・低コスト油井であるスイートスポットの発見率が低下している恐れがある。カンザスシティ連銀の損益分岐点に関するアンケート調査の結果でもそれを裏付けている。

 中期的にはシェールオイルの事業採算性が悪化して増産継続が困難となり,原油価格は上昇する可能性があることに注意が必要だろう。

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