世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.660

高齢者は意外と肉が好き?

榎本裕洋

(丸紅経済研究所 シニア・アナリスト)

2016.06.20

 ここ数年気になっているのが,「牛(ぎゅう)カツ専門店」の増加である。関西出身の筆者にとって「牛カツ」は目新しいものではないが,豚肉文化が根強い関東でも「牛カツ」が受け容れられている様子には驚きを感じる。また低価格ステーキチェーンの急拡大や,米国発本格ステーキハウスの日本初上陸,など日本には空前の「肉食ブーム」が到来したように感じる。

 「肉食」と言えば韓国を思い浮かべるが,1人当たり食肉需要量(国連食糧農業機関の供給量データを需要量と読み替え)は90年代後半まで日本の後塵を拝していた。しかしバブル崩壊のあおりを受け90年代以降日本の1人当たり食肉需要量が伸び悩んだのに対し,アジア危機克服後の高成長を背景に韓国の1人当たり食肉需要量は順調に伸び,2011年の1人当たり食肉需要量は日本48.79kg/年に対し,韓国は62.22kg/年と韓国が大きくリードしている。裏返せば,景気さえ良くなれば,日本人の食肉需要量もまだまだ増える可能性があるということだ。冒頭に述べた昨今の日本の「肉食ブーム」も,アベノミクスを受けた景気の落ち着きを反映していると筆者は考えている。因みに日本人と1人当たりGDPがほぼ等しいイタリア人の場合,2011年の1人当たり食肉需要量は86.65kg/年と日本人の倍近い。

 次に年齢と食肉需要の関係を調べてみよう。2015年家計調査における世帯主年齢階級別の食肉向け支出金額を1人当たりに換算すると,世帯主が60−69歳の階級が肉類に対する支出金額が最も多く,世帯主が29歳以下の階級が最も少ない。世帯主が60−69歳の世帯ということは,遊びに来た孫のために祖父母が肉類を購入しているという可能性も排除できない。しかし,同様の現象は他の年齢階級でも考えられることであり(例えば遊びに来た親族や友人に肉類をご馳走する),このことをもって統計の信頼性を否定すべきではない。また60−69歳の階級は家庭で食事する回数が多いため食肉需要が多いとの指摘もある。しかし同じ家計調査の「外食」の中で肉類が多く含まれると考えられる「中華」「洋食」「焼肉」「ハンバーガー」を合計して1人当たりに換算しても年間9,283円と,最も外食支出が多い「40−49歳」の世帯(年間10,428円)と1,145円しか違わない。より厳密な比較を行うためには,使途不明な小遣い(現役世代の昼食代はこの中に含まれている可能性が高い)の使途を知る必要があろう。

 以上のことから,筆者は,食肉に対する支出を左右するのは年齢よりも所得であると考える。日本では一般に高齢者の所得が高く(あるいは資産が多く),従って食肉に対する支出も多いのだろう。この仮説は先に述べた仮説(景気拡大=所得増加=食肉需要増加)とも整合的だ。低成長とされる日本でも実質GDPは年1%弱増加しており,今後も緩やかな所得増加に伴い食肉需要は増加するだろう。そして相対的に所得の高い日本の高齢者は我々が思っている程には食肉需要を減らさないと思わる。また今は所得制約を受けている若者の食肉需要は,所得制約が無くなれば爆発的に増加する可能性がある。この仮説の背後には,面白いビジネスチャンスが潜んでいる。

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