世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.599

現在の一次産品問題

宮川典之

(岐阜聖徳学園大学教育学部 教授)

2016.02.22

 いま,中国経済の停滞に絡んだ諸問題が噴出している状況にある。それはとりもなおさず一次産品の価格低下に関連した問題であるといえよう。それを起点として,グローバルな次元での株価下落におよんでいる。時あたかも株価大暴落の様相である。いたってわかりやすいのは,アメリカのシェールガス革命も手伝って原油価格の低下傾向に歯止めがかからないため,アラブの産油国が,国際分散投資していたオイルマネーを一斉引き揚げに動いていることだ。このことが世界経済に芳しくない影響を与えているとされている。

 ところで,価格下落問題は株価や原油にかぎらない。いわゆる一次産品一般にひろがっていることが問題なのである。原油以外のエネルギー資源や鉄鉱石に代表される鉱物資源,さらには各種一次産品にまでおよんでいるのである。21世紀に入ってから10年間ぐらいは,むしろ一次産品価格が大幅に上昇した時期であった。新興国のBRICsがもてはやされ,アメリカにおいて金融危機がみられたとはいえ,中国やインドなどの新興国の行く末は楽観的ムードに包まれていた。それが一転していま取りざたされるような事態になってしまった。さてこうした状況をどのように捉えたらよいだろうか。

 ここでは一次産品問題に還元して考えてみよう。筆者は一次産品価格ブームのときに『一次産品問題を考える』(文眞堂)を上梓した。その本の中で筆者は,そのような傾向は恒久的に続くものではないということを含意させていた。歴史をみると,その時代の中心国——19世紀はイギリスであり,20世紀はアメリカである——が工業化を大々的に推進しているときに一次産品ブームが起きていた。大量の工業製品を製造するために,その原料である一次産品を大量に求めるからだ。それは一次産品への大きな需要増加として現出する。とくに19世紀後半はそうであった。ところが,1930年代の大恐慌期はその正反対である,世界の中心国がイギリスからアメリカに代わって,一次産品に対する需要が細りはじめた時期でもあった。かくしてプレビッシュやシンガーなどの初期構造主義経済学者は,一次産品の対工業製品交易条件の長期的悪化傾向について主張したのだった。そのような傾向がいつごろまで続いたかといえば,学者によって見方が分かれてしまう。一次産品の輸出ペシミズムを支持する者もいれば,逆にそれを否定する学者もいた。その後の推移をみると,現象としては両方が交互に現れることとなった。そしていま再び,傾向に変化が見られようとしているのである。上昇傾向から一転して下落傾向への変化,これである。

 ここまでの展開から確実にいえることは,一次産品の重要な属性のひとつに浮動性が認められるということだ。価格上昇と価格下落の程度が相対的に大きく,ましてや国際金融の分野で代表的な一次産品は相場物としてあつかわれる国際商品となっている。金融イノヴェーションがそれに拍車をかけた。その結果としての浮動性である。

 もうひとつ次のことに注目しなければならない。すなわち歴史的な中心国と周辺国との関係,これである。19世紀の第4四半世紀は,いわゆる英国「大不況」期とみなされた時期である。そのとき歴史的に重要であるのは,新興国としてのアメリカとドイツがキャッチアップ過程にあったという事実である。結果的にこの両国が先発国たるイギリスを凌駕してしまう。一次産品との関係からこれらの国をみると,両国とも当初は一次産品をイギリスへ輸出していた。アメリカはタバコと綿花および穀物であったし,ドイツは小麦やライ麦などの穀物であった。そこから一転工業国になったのである。すなわち両国が中心国たるイギリスへ一次産品を輸出していたころは,それこそ一次産品に対する需要は旺盛であり一次産品ブームであった。

 そのような歴史的事情を脳裏に置きながら,現在の中国の置かれた状況を考えてみるとよい。とくに21世紀に入ってから中国が工業化のレヴェルを上げるにつれて,一次産品に対する需要はまさしく旺盛そのものとなった。それが一次産品ブームにほかならない。すでにその局面において中国は,歴史的に経済中心国としての属性を有しつつあるといえるかもしれない。そしてそれが一転して,成長は減速期に入ってしまった。そして一次産品価格は下落傾向を示すようになった。さらには新興国のなかで,構造的に一次産品に依存するようになったロシアとブラジルはいっそう経済低迷に苦悩しつつある。これが現在の状況である。

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