世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2954
世界経済評論IMPACT No.2954

近視眼的経済政策

小野田欣也

(元 杏林大学総合政策学部 教授)

2023.05.15

 「近視眼的」のフレーズは経営学などでよく使われるが,その実情は経済政策にもあてはまる。

 例えば2020年の新型コロナウイルス蔓延による経済停滞から世界各国は金融緩和政策を同時多発的に実施したが,緩和縮小のタイミングを読み誤った。大規模かつ急速なコロナワクチン接種の普及により経済活動が再開し,リベンジ消費が予測されたのにもかかわらず,短期的な経済統計の不改善のため,金融緩和や給付金付与が続けられた。その結果がアメリカやヨーロッパのインフレ高進である。

 一方日本では2013年以来の大規模金融緩和が継続的に続いており,日銀新総裁も当面の変更無しを示唆していることから,近視眼的な失敗はみられない。ただしアベノミクスの3点セット,すなわち大規模な金融緩和,機動的な財政政策,成長戦略については一番目を除いてさしたる進展はない。むしろ長期的戦略が問われている。

 この点でエネルギー政策の転換はその最たるものだろう。世界は1970年代の前半と末期に二度に当たる石油危機を経験した。折しも1977年にはエイモリー・ロビンズの「ソフト・エネルギー・パス」が刊行されるなど,太陽光・風力・地熱などの自然エネルギーが注目されていた。日本も1980年には「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律(代エネ法)」を制定するなど,自然エネルギーの開発や利用促進へ舵を切った。しかしその後の化石燃料価格の低下や供給安定などでその歩みは留まった。

 2016年のパリ協定発効後,FIT・FIP制度(いわゆる固定価格買取制度)など,自然エネルギー開発・発展のための動きを加速するが,電力消費量に占める割合は2022年でも20%強に過ぎない。この数値はスウェーデンやカナダは別格としても,ヨーロッパ諸国の40%強と比較しても小さく,中国の31%にも劣っている。エネルギー資源希少国の日本が50年前から自然エネルギーへの転換を模索したにもかかわらず,国際エネルギー環境に振り回されてその歩みは進まなかった。言葉は悪いがまさに場当たり的,近視眼的経済政策であった。

 一方で日本の経済発展は「国際収支発展段階説」を地で行くような経過であった。すなわち日本の国際収支状況から,①未成熟な債務国は戦後から1950年代,②成熟した債務国は1960年代,③債務返済国は1970~1980年代,④未成熟な債権国は1990~2000年代,⑤成熟した債権国は2010年代以降現在まで,と考えられる。

 1960年代に貿易赤字解消と貿易立国を目指して「輸出振興政策」を実施し,1980年代は貿易摩擦解消を目指し「生産拠点の海外展開」や「輸入自由化政策」を行い,1990年代からは「輸入促進政策」を,概ね2000年代からは「内外投資促進政策」を進めている。

 一見政策は一貫しているように見えるが,その実,政策はその時代の日本を取り巻く国際環境に適応するように実施されてきたとも考えられる。戦後70年の経済政策としては近視眼的とも言えなくはない。

 今日新型コロナショックも終焉を迎え,リベンジ消費が期待されるタイミングでの円安は,インバウンド需要の拡大やそれに伴う日本経済の再活性化に大いに貢献している。「観光立国推進基本法」をはじめとするインバウンド需要を促進する政策も散見される。近視眼的で場当たり的,他力本願的ではあるにせよ,そうした変わり身の早さも近視眼的経済政策の有効性かもしれない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2954.html)

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