世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2493
世界経済評論IMPACT No.2493

米議事堂襲撃事件調査とその行方

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.04.04

バイデン当選に反対する最高裁判事の妻

 米国の連邦最高裁判所では現在二つの問題が注目されている。ひとつはバイデン大統領が指名したケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事(現職はコロンビア特別区連邦控訴裁判事)の承認問題。こちらは,4月8日から始まる復活祭休暇の前に上院本会議で票決の見込みだ。もう一つは,3月24日付のワシントン・ポスト紙がスクープ報道した,現職クラレンス・トーマス最高裁判事の妻によるバイデン当選を覆そうとした策動である。

 2020年11月3日の選挙で決まったバイデン候補の勝利を認めず,翌年1月6日,数千人の暴徒が連邦議事堂に乱入し,死者5人,負傷者140人余を出したこの未曾有の事件は,現在も繰り返し報道され,映像を見るたびに事件の背後にある米国の言い知れない闇の深さを感じさせる。最高裁判事の妻が事件に関与していたというニュースは,その闇をさらに深めた。

 事件の真相を究明するため,下院が設けた「1月6日議会襲撃事件特別調査委員会」(以下,特別委員会)は,昨年7月から活動を開始し,真相究明に努めているが,トランプ前大統領のマーク・メドウズ首席大統領補佐官が特別委員会に提出した9000ページの資料から,最高裁の最古参判事クラレンス・トーマス(黒人)の妻バージニア(愛称ジニー)・トーマス(白人)が,バイデンの勝利を覆そうとして,メドウズ補佐官に圧力を加えていたことが判明した。

 ワシントン・ポストの名物記者ボブ・ウッドワードと共著者ロバート・コスタ(CBS News)が報じた,3月24日の特ダネ記事によると,ジニーは2020年11月3日の投票日直後から,メドウズ補佐官に29通のメッセージを送って,バイデン当選をひっ繰り返そうと画策している。11月10日付のメッセージでは,メドウズに「マーク,この偉大な大統領を助けてあげて。あなたはリーダーです。大部分の人はバイデンと左翼が我々の歴史の大強盗(the greatest Heist)であるのを知っています」と訴えている。

 ジニーはQAnonの陰謀論を支持し,1月6日に行われたホワイトハウス前の集会にも参加し,メドウズは議事堂襲撃に至った抗議行動の計画作成にも深く関与したと報じられている。ティーパーティ運動に加わりメドウズと親しくなったジニーは,保守政治活動を続け,2013年にはトランプ政権の首席戦略官となるスティーブ・バノンと相談し,Groundswellという保守政治団体を立ち上げている。バノンだけでなく,トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クッシュナーなどトランプ政権の幹部にも働き掛け,トランプ再選工作に当たっていたという。

トランプ前大統領最大の擁護者,クラレンス・トーマス判事

 妻ジニーの長年にわたる極右政治活動は周知のことらしく,夫のトーマス判事は妻の政治活動にかかわる裁判には関与しないよう忠告されていた。しかし,判事はこれに従わず,夫婦そろって互いに相談はしていないと主張している。しかし,トーマス判事は最高裁の審理でトランプ大統領を強く擁護している。昨年2月,ペンシルバニア州選出の共和党議員が郵便投票を無効と訴えた審理では,過半数の最高裁判事が審理を拒否したが,トーマス判事だけは反対意見を書いた。また今年1月,議事堂襲撃に関係する記録の提出をトランプ側に求めることに唯一人反対したのもトーマス判事であった。

 ワシントン・ポスト紙に続いて各紙が一斉に報道すると,3月28日,上院司法委員会の民主党9議員と下院民主党の13議員は最高裁に書簡を送り,①今後トーマス判事は1月6日事件に関連する訴訟は忌避すべきこと,②なぜこれまでこの事件の審理に関与したか文書で説明することを要求した。またロバーツ最高裁長官に対して,最高裁判事に拘束のある行動規範を4月末までに定めるよう要求し,一部民主党議員はトーマス判事の弾劾も要求している。

 同じ3月28日,カリフォルニア州の連邦地裁のカーター判事は,トランプ前大統領と選挙結果を覆すよう助言したイーストマン弁護士が1月6日の大統領選出手続きを妨害し,重罪を犯した可能性が非常に高いと裁定した。この裁定はトランプ前大統領を訴追するものではないが,今後この裁定は意味を持つ。一方,司法省のリサ・モナコ副長官は3月28日,2023年度予算に関する記者会見で,トランプ前大統領の介入によって低下した司法省の機能を復活するともに,131人の検事を増員し,議事堂襲撃事件の決着を急ぐと述べている。

 11月の中間選挙までに,特別委員会と司法省がどこまで事態を進展させているか。これが今後の焦点となろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2493.html)

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