世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2427
世界経済評論IMPACT No.2427

米国のインド太平洋戦略と経済枠組み(IPEF)

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.02.21

インド太平洋戦略におけるIPEFの位置付け

 国家安全保障会議が2月11日に発表した米国初の『インド太平洋戦略』(全19ページ)には,5つの目的とそれを達成する10本の行動計画が盛り込まれている。目的のひとつが「インド太平洋地域の繁栄の促進」であり,「インド太平洋経済枠組み」(IPEF, Indo-Pacific Economic Framework)は,この目的を達成するための行動計画として位置づけられている(注1)。

 さらに,米国はIPEFを21世紀の多国間連携として推進し,市場参入問題は対象とはせずに,6つの課題(貿易円滑化,デジタル経済化,サプライチェーンの強靭化,脱炭素化,インフラの強化,労働基準の高度化)によって,地域の繁栄を促進するとしている。同時に,①2023年以降,米国がAPECにおける自由,公正かつ開かれた貿易と投資の促進に努めること(米国は2023年のAPEC議長国),②昨年6月のG7サミットで合意されたB3W(Build Back Better World)イニシアティブによって,インド太平洋地域における途上国のインフラを強化し,地域内のインフラギャップを縮小すること,③5Gベンダーの多様化および開放的な無線アクセス・ネットワーク(O-RAN)技術を中心に強靭で安全なグローバルな電気通信を推進すること,の3点が追記されている。

 10本の行動計画は今後12~24ヵ月内に実施するが,IPEFは2022年の早い時期に開始する(We will launch, in early 2022, a new partnership)(注2)。

詳細の発表は3月末か

 以上が『米国のインド太平洋戦略』で述べられているIPEFに関するすべての内容である。これだけでは新鮮味はないが,IPEFは現在も関係省庁,利害関係者,インド太平洋諸国などと詳細が検討され,具体化に向けて作業中だから致し方ない。しかし,IPEFの具体化を担当しているサラ・ビアンチUSTR次席代表(注3)の話などから断片的に報じられている状況は次のとおりである(注4)。なお,〔〕内は筆者の追記。

・IPEFの6つの課題のうち最も重視されているのがデジタル貿易。CPTTP,USMCA,RCEPにもデジタル貿易や電子商取引の規定があるが,これらよりもより進化した規定の制定が米業界などからも求められている。また,中国が昨年11月,DEPA(デジタル経済パートナーシップ協定)に加盟を正式に申請したため,米業界はIPEFによるデジタル貿易規定の早期の立ち上げを求めている。

・6つの課題のほかに,米・EU間のTTA(貿易技術評議会)でも取り上げられている先進技術保護のための輸出管理規定も設けるべきだとの議論が出ている。

・〔インド太平洋地域の中のどの国までを対象にするのか,IPEF発足の条件は何かなどが不明だが〕IPEF参加国は,IPEFの規定のすべてに参加する国と一部参加の2段階構成とする。ただし,貿易関連規定に参加する国は全規定に参加することを条件とする。デジタル貿易,労働,環境の貿易関連規定(trade modules)は拘束的なもの(binding commitments)にする。IPEFの規定は加盟国間に相互運用性の高い高度なものとする(high-standard rules to increase interoperability)。

・インドがIPEFに全面参加するか否か不明だが,参加しない場合は「インド・米国貿易政策フォーラム」を使って二国間で協議する方法も検討する。

・IPEFは市場参入障壁の削減等は対象にしない。このため,IPEFの実施には米国連邦議会による新法制定の必要はない。しかし,〔米国憲法第1条第8節第3項により,諸外国との通商を規定する権限は連邦議会にあることから〕連邦議会とは連絡を密にしてIPEFを進めていく。

・IPEFはUSTRと商務省が主導する。上記の貿易関連規定はUSTRが担当し,サプライチェーンの強靭化,インフラ,脱酸素化,腐敗行為防止などは商務省の担当となる。

・IPEFの詳細発表までには数ヵ月ではなく数週間を要する。より包括的な内容は3月末までに発表したい。

[注]
  • (1)本コラム1月31日付,N0.2407参照。
  • (2)以下の資料を主に参照した。①Executive Office of the President, National Security Council, Indo-Pacific Strategy of the United States, February 2022,②The White House, FACT SHEET: Indo-Pacific Strategy of the United States, February 11, 2022,③Background Press Call by Senior Administration Officials Previewing the U.S.’s Indo-Pacific Strategy, February 11, 2022, ④Statement by Press Secretary Jen Psaki on the United States Hosting APEC in 2023, February 10, 2022。なお,USTRは関連する発表は行っていない。
  • (3)ビアンチ次席代表(大使)は昨年11月のタイUSTR代表の東アジア歴訪に同行した。所掌はアジア,アフリカ,投資,サービス,繊維,産業競争力。USTRの次席代表はビアンチを含めて3人,うち1人はジュネーブ駐在。
  • (4)Inside U.S. Trade, February 4, 2022掲載の複数の記事を参考にした。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2427.html)

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