世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2307
世界経済評論IMPACT No.2307

モディ首相,コロナ禍初のクアッド訪米で成果

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2021.10.11

 インドのモディ首相は外交で自らの渡航を重視してきたが,新型コロナウィルス感染拡大以降周辺の近隣諸国を除くと自粛し,オンライン出席に切り替えてきた。今年6月のG7コーンワル会議には議長国の英国ジョンソン首相から民主主義ゲスト国として招かれていたものの,コロナ感染拡大期で渡航による対面出席をあきらめた。そんな中で,この9月末米国バイデン大統領が初のクアッド対面首脳会議を開催し,モディ首相はコロナ禍で初の本格的な外遊となった訪米で“画期的な”(Times of India紙)成果を上げた。国内のコロナ感染拡大第2波の収束もあり,インドのマスコミは好意的に伝えている。

FOIP推進にワクチン,テロ,気象変動協力等

 今回の訪米の目的は,FOIP(自由で開放的なアジア太平洋)構想に参加する日印米豪4カ国初の対面首脳会談で,3月のテレビ会談を経て米国バイデン新大統領が呼び掛け実現した。会談は,視野に置く中国の覇権主義的な一帯一路政策の展開や海洋進出が多くなり,コロナ禍や米軍のアフガニスタン撤退等国際状勢が変化する中で行われた。モディ首相にとっては2014年政権担当以来7回目の訪米で,インド自身中国との国境紛争やネパール,ブータン,スリランカ等近隣周辺国あるいはインド洋への中国の進出で安全保障に危惧を感じており,米国新政権の下でクアッドの意義を確認し,FOIP構想の推進が合意された意義は大きい。

 この首脳会議では,FOIP協力を中心に,コロナ対策やインフラ協力,テロやサイバーセキュリティ,気象変動対策,アフガン問題等国際問題への対応や協力が話し合われた。その中で,コロナ対策では中国のワクチン外交に対抗する4カ国のワクチン提供協力が再確認され,インドでワクチンを増産しインド太平洋地域に提供することになった。インド自身海外に提供してきた国産ワクチンが国内感染の爆発で一時ストップしていただけに,クアッドの協力は歓迎される。また,米国は前政権時パリ条約離脱で気象変動への対応が危ぶまれていたが,バイデン政権の下で復帰しクアッドとしても推進を図ることになり,この問題を重視していたインドとしては好ましい進展であった。

 クアッド4カ国の首脳会議とともに,2国間首脳会談が行われた。米印首脳会談では,防衛やテロ対策,ハイテク協力等の他,前政権時に見直されたインドIT技術者へのH-Bビザ問題の是正に加え,新たな人材交流フェローシップが合意された。また,モディ首相は400万人のインド系米国人やインド系初のカマラ・ハリス副大統領との会談に加えて,CEOがインド人のAdobe等国際企業5社との会談も行われインドへの投資を要請した。日印首脳会談では今後のより一層の日印協力・連携の拡大が,また豪印首脳会談では経済や防衛協力が合意された。この他,国連総会の一般討論演説でモディ首相が国際秩序順守やテロ防止,コロナワクチン提供に触れ存在感を示し,ワクチン提供ではアフリカ諸国の代表が歓迎した。

日印ではアフリカ開発協力に可能性

 FOIP構想は,2016年の第6回TICADナイロビ会議で当時の安倍首相が提案,中国の覇権主義的な一帯一路経済圏構想や海洋進出に対抗して,インド太平洋地域に法の支配に基づく自由で開放的な国際秩序を呼び掛け,インド,米国,豪州が賛同した。インド洋には緩やかな集まりのIORA(環インド洋連合)以外に太平洋のようにASEANを中心に強力な協力関係はないが,AAGC(アジア・アフリカ成長回廊)構想では成長圏アジアから潜在力の高いアフリカへの経済的な関心が高まっている。インド洋の大国インドには,アジアからアフリカへ生産網拡大を橋渡しする国際的な期待があり,19年に開催された第7回TICAD横浜会議では,日印が協力してアフリカ開発を進める計画が議論された。

 日印協力推進では,JETROとインドCII(インド工業連盟)が「アジア・アフリカ地域における日印ビジネス協力プラットフォーム」を設立した(注1)。アフリカ開発は中国も重視し,資金供与や中国企業の進出が目立ち中国のワクチン外交も活発である。インドは古くからアフリカと交流があり,経済協力やインド企業の投資にワクチンの提供も進み,現地のキャパシテイ・ビルデイングを重視する日印ビジネス協力や連携の可能性が高まっている(注2)。クアッドでの日印協力は,首脳会議に加えて「2+2」協議も始まり,艦船訓練等防衛協力や中印国境紛争を抱えるインド北東部でのインフラ建設も進む。今後拡大する日印協力では,両国のビジネスを通じた経済連携でより特色が出せると思う。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2307.html)

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