世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1740
世界経済評論IMPACT No.1740

「グレートロックダウン」後の欧州経済

平石隆司

(欧州三井物産戦略情報課 GM)

2020.05.11

 欧州におけるCOVID-19の感染拡大は,高水準ながらピークアウトしつつある。欧州は3月以降,米国と並びパンデミックの中心地と化したが,主要国におけるロックダウンの効果が顕在化し,4月後半以降,新規感染者数や死者数がピークアウトしつつある。これを受け,主要国では,5月上旬以降,厳しい抑制措置の緩和政策=出口戦略が開始されている。

 一方,実体経済は,3月以降,①サプライチェーンの乱れ,②先行き不透明感の高まりや,株価下落,債券スプレッド拡大等金融市場の混乱による家計,企業マインド悪化や資金調達環境悪化,③Social Distancingの徹底や,外出制限,外食や小売等営業制限,④世界同時感染拡大による世界貿易縮小,等を背景に,必需的消費を除けば民間需要が総崩れだ。

 PMI総合指数は,3,4月と2か月連続でユーロ圏,英国共,史上最低水準を更新,3月の乗用車販売は,ユーロ圏,英国共1−2月の水準から半減となった。1−3月のユーロ圏の実質GDP成長率は,前期比年率−14.4%を記録,ロックダウンの影響で4−6月は同−50%程度へさらにマイナス幅が拡大する見込みだ。英国は大陸欧州に比べロックダウン突入が若干遅れたため,1−3月の成長率のマイナス幅はユーロ圏より小さいが,4−6月はマイナス成長が加速する見込み。こうした「第二次世界大戦後最大の試練」に直面し,欧州各国政府及び中央銀行共,「やれることは何でもやる」「総力戦」の構えだ。

 今後の景気展開は,以下の5つの要因により左右される。

 第一に主要国におけるロックダウンからの出口戦略だ。感染抑制と,経済活動及び国民の精神状態(厳しい規制は不眠,DV等を引き起こしている)間の「トレードオフ」の下で,いかなる出口戦略をとるか。

 第二に,COVID-19感染拡大の主要国における状況だ。感染拡大の推移は,①ロックダウンからの出口戦略,②ウイルスの特徴(インフルエンザウイルスの様に高温多湿に弱いのか等),等に依存。

 第三にCOVID-19対策における技術革新の動向だ。ワクチンと治療薬実用化はいつか。スマホにより感染者との接触者を追跡するアプリ等の開発と実用化は進むのか。

 第四に財政・金融政策の動向だ。EUは,①ESM(欧州安定メカニズム)による2400億ユーロの融資,②EIB(欧州投資銀行)による2000億ユーロの中小企業向け支援,③1000億ユーロの雇用維持のための基金,等の緊急対応策を打ちだすが,収束後の経済復興政策において,南欧対北欧の対立を克服し「連帯」を示せるか。

 第五に,経済主体の行動の変化だ。感染抑制策が緩和された後,家計,企業の行動はパンデミック前の状態にどのぐらいの速度で回帰するのか。それとも不可逆的構造変化が生じるのか。

 時間軸を1年半とした場合,欧州経済には以下の4つのシナリオが想定される。

(1)メインシナリオ~景気回復はL字型で斑模様~

 ワクチンの早期開発はならず,投与開始は2021年央以降となる。2020年5月以降の制限解除は段階的で慎重なものとなり,ペントアップディマンドの顕在化は緩慢なものとなる。ユーロ圏,英国共,7−9月から前期比年率でプラス成長に復するが,7−9月に「反動増」で同数十パーセントのプラス成長となった後は,スピードは緩慢なL字型となる。実質GDPの水準が,パンデミック前の2019年末の水準を回復するのは2022年にずれ込む。

 製造業の回復ペースに比べた観光,娯楽,飲食,航空輸送等,対面型を中心とするサービス産業の回復の遅れ等,「産業毎」,産業構造とパンデミックによる打撃の違いを背景に,回復が比較的順調な独,二番手の英,仏,遅れる伊,西等「国毎」の跛行性を伴う展開。

(2)早期回復シナリオ~V字型回復が進む~

 迅速な経済活動正常化を狙う主要国政府は,感染者との接触者の追跡アプリや有効な治療薬の活用等によって,抑制策を早期に解除する。ワクチンも2020年末に実用化され,感染の第二波が回避されると同時に家計,企業のマインドも早期回復する。経済復興のための追加の財政・金融政策も迅速に実施,ユーロ圏,英国共,景気回復はⅤ字型で,産業毎,国毎の跛行性も小さい同時回復となる。

(3)ロックダウン長期化シナリオ~感染拡大高止まりで夏迄厳格な抑制策継続~

 感染拡大はピークアウト後も夏迄高止まりが続き,主要国による抑制策緩和は遅々として進まない。1−3月から7−9月迄3四半期連続で実質GDPのマイナス成長が続く。その後厳しい抑制策は緩和されるが,家計や企業の支出は委縮した状態が続き,マイナス成長脱却後も回復は非常に緩慢。

(4)第二波襲来シナリオ~W DIPリセッション(注)突入~

 経済復旧を焦る主要国政府が,抑制策緩和を急ぎ過ぎ,域外からの再輸入等も相まって,COVID-19の本格的第二波が2020年10−12月に直面,主要国は再びロックダウンを余儀なくされる。7-9月に景気は一時回復するが,再び10−12月,2021年1−3月にマイナス成長となるW DIPリセッションに陥る。繰り返すCOVID-19の波に消費者と企業は委縮,景気低迷が長期化し,2020年に続き2021年も2年連続でマイナス成長となる。

 以上のシナリオの蓋然性は,上記5要因により上下する不確実性が高い状況が続くため,要因の変化を注視しシナリオ毎の対応を想定しておく必要がある。

[注]
  • リセッション後,回復しかけた景気が再びリセッション入りすること。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1740.html)

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