世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
注目される中国のスマートシティ建設
(名古屋外国語大学 教授)
2019.03.11
ICT(情報通信技術)等を使って都市が抱えるさまざまな問題を解決し,都市全体を管理する「スマートシティ」を整備する動きが世界各地で加速化しつつある。こうした中,日本政府は,人々の暮らしやすさにおいても,ビジネスのしやすさにおいても世界最先端を行くまちづくりとして,第四次産業革命を先行的に体現する最先端都市であり,「スマートシティ」の進化版ともされる「スーパーシティ」構想を検討しており,同構想を実現するため,内閣府特命担当大臣(地方創生)の下,有識者懇談会が2018年10月から開催されている。
同懇談会の配布資料で海外における「スーパーシティ」構想の先行事例の一つとして取り上げられているのが中国の浙江省杭州市だ。片山さつき内閣府特命担当大臣は2019年1月,同構想に関わる海外視察等を行うため杭州市を訪問。中国を代表する大手IT企業で同市に本社のあるアリババグループを訪問し,スマートシティに関する同グループの取り組みについて説明を受けるとともに幹部と意見交換を行った。
杭州市の事例が示すように,中国は現在,国家を挙げてスマートシティ建設に取り組んでいる。都市化が急速に進む中,環境,エネルギー,交通,インフラ,通信,人口,教育,健康などの多様な分野での課題も大きくなっており,その解決策の一つとして,中国はスマートシティに期待している。
第13次五カ年計画(2016〜2020年)においては,新型都市化建設重大プロジェクトの1つとしてスマートシティが掲げられ,「インフラのスマート化,公共サービスの円滑化,ソーシャル・ガバナンスの精密化を重点として,現代情報技術とビッグデータを十分に運用し,新型のモデル的なスマートシティを構築する」という方針が打ち出されている。住宅都市農村建設部により制定された「第13次五カ年計画期間のスマートシティ特別計画」によると,2020までの5年間でスマートシティの投資規模は5,000億元(1元=約16.5円)を上回るとされる。
国務院(内閣)は2017年1月,「国家人口発展計画(2016〜2030年)」を公表。同計画によれば,都市化率(常住人口ベース)を2015年の56.1%から2020年までに60%,2030年までに70%に引き上げることを目標に掲げている。国家統計局によれば,2017年末現在,中国都市部の常住人口は前年末2,049万人増の8億1,347万人となり,総人口に占める都市部人口の割合(都市化率)は58.5%と,前年比1.2ポイント上昇したが,これは日本の1950年代後半の水準だ。中国政府は都市化率の向上に向けて,都市に移住する農民に都市住民と同等の権利を享受できる戸籍制度改革などの政策を推進しており,中国の都市化とそれに伴うスマート化は今後も進展していくことが見込まれる。
こうした中,国家市場監督管理総局と国家標準化管理委員会は2018年10月,スマートシティに関する国家標準(国家規格)を発表した。それまで,多くの都市では統一した標準がなく,各都市の管轄部門がそれぞれ独自に建設を行っているのが現状とされていたが,国家標準の制定によりスマートシティの水準と質の向上につながることが期待されている。
中国では2017年末現在,約500の都市がスマートシティを建設中,あるいは,スマート化に向けた建設目標を掲げているとされる。中国の大手IT企業も積極的に参画する一方,都市も企業のイノベーションの実験場となり,次世代技術を育てる場ともなっている。こうした中で,これまで知られていなかった新興都市が中国で続々と誕生してくることも予想される。
加えて,中国は国内で開発が進められているスマートシティに関わる製品・サービスを海外にも展開していく方針であり,広域経済圏構想「一帯一路」の沿線国をはじめとする新興国・途上国に普及していくことになれば,世界のスマートシティ市場における中国のプレゼンスがさらに高まる可能性もある。
日本としても「スーパーシティ」構想の先行事例あるいはスマートシティビジネスの海外展開における競合相手として,中国の動向を注視していくことが必要であろう。
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