世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1115

朝鮮半島情勢に関する一つの考察

真田幸光

(愛知淑徳大学 教授)

2018.07.23

 朝鮮半島情勢は今年に入り,大きく変化した。追い込まれた北朝鮮が一気に南北融和と言うカードを切り,また,これを韓国も受け入れたことによる変化と筆者は見ている。そこで,ここでは朝鮮半島情勢についての私見をご披露したい。

朝鮮半島情勢

 筆者は,朝鮮半島情勢について,

——朝鮮民主主義人民共和国=北朝鮮の建国の祖である金日成元初代国家主席は,そもそも抗日パルチザンであったが,マルクス・レーニン主義をよく学び,旧ソ連軍の事実上の配下に入り,抗日活動で実績を上げた。そして,第二次大戦後,北朝鮮を建国,初代指導者として,その旧ソ連と連携をし,国家運営を始めた。

 その金日成元国家主席の遺志を次ぎ,金正日前主席,そして金正恩現委員長も旧ソ連の後継である,「ロシアとの基本連携」の姿勢を現在も原則として崩してはいない。

 しかし,旧ソ連の崩壊と共にロシアからの対北朝鮮支援は減り,ここで北朝鮮は中国本土からの支援を受けるようになる。

 中国本土としては,ロシアの北朝鮮に対する利権を奪取すべく,支援外交に出た訳である。然るに,北朝鮮はロシアとの連携姿勢を基本的には崩さず,中国本土にはなびかないでいる。そして,今回の米国からの圧力を受け,北朝鮮に非核化を求めたディールに於いても,北朝鮮は,こうした中国本土の要請には基本的には応じなかった。

 これを受け,中国本土人民解放軍は米軍との連携による,「北朝鮮の金正恩斬首作戦」を示唆するようになり,朝鮮半島の軍事的脅威が高まる。

 ここで,北朝鮮はロシアにアプローチ,ロシアのプーチン大統領は米中に圧力を掛ける。

 しかし,米中とロシアの国力の差から,ロシアの圧力は限定的であった。

 ところが,ここで,北朝鮮とロシアに神風が吹く。

 親イスラエルを掲げるトランプ大統領に対して,イスラエル政府が,北朝鮮の核脅威よりもイランの核脅威が問題であるとの認識を伝える。こうした状況を見たロシアのプーチン大統領は,すかさず,米国・トランプ大統領に対して,「シリア問題では譲れないが,イラン問題に関しては協力することやぶさかではない」との姿勢を示す。これを受けて,トランプ大統領は,一旦,北朝鮮問題から手を引き,イラン問題に集中する。

 そして,トランプ大統領は,エルサレム首都容認宣言を発し,「トランプ政権はイスラエル政府と一枚岩である」ということを内外に示しつつ,更には,昨年末より,イランにCIAと見られる部隊を送り込み,イラン国内での反政府デモ活動を支援,これが拡大し,イランを封じ込めることに成功,イラン問題に一定の楔を打ち込む。

 そして,歴史と宗教,文化などが複雑に絡む中東問題よりも歴史が浅く構図が単純な北朝鮮問題を,先に決着をつけるという姿勢を再び強める。

 こうした流れを受けて,一時は,「平昌五輪,パラリンピック以降の米中による金正恩斬首作戦実施」のリスクが再び強まることとなる。

 これに対して,ロシアと北朝鮮は,「朝鮮半島問題の民族自決化ムードの醸成」を念頭に,その出自が北朝鮮に近い韓国の文大統領を上手に取り込みつつ,平昌五輪開会式,閉会式での,「南北融和」の下地を見事に演出,国際世論が,「民族自決による南北融和」に対する支持に傾き,特にこうしたムードが欧州を中心として高まる中,韓国特使を通した,南北首脳会談,米朝首脳会談の提案を北朝鮮から行い,特に米国に対して,これを拒否しにくい国際環境を作って,「米国が北朝鮮との和睦を図り易いという状況」を上手に構築した。

 そして,ロシアは,更に南北朝鮮に対して,「米中の顔色を見て国家運営をするのではなく,自立をせよ」とのキャッチフレーズの下,南北朝鮮に対して,「天然ガスのパイプラインの釜山までの敷設(中国本土領内を通さずとも敷設可能),サハリン,シベリアのインフラ開発ビジネスの権利を一定程度南北朝鮮に付与する」ことを示唆,南北朝鮮の取り込みに余念がない。

 更に,中国本土は,金正恩斬首作戦の目が無くなった今は,一転,地域の安定を前提として,一帯一路構想の拡大を意識しつつ,今はむしろ,ロシアと連携しつつ,極東地域の経済発展への舵を切る可能性が一気に高まっており,朝鮮半島,東北三省,シベリア,サハリン(含む,北方四島)の極東大開発を中露主導で,韓国の資金と技術,北朝鮮の労働力も利用しながら,推し進めることを先般の上海協力機構の会議の中でロシアと協議している。

 こうした結果,米国・トランプ政権は最大の同盟国のイスラエルの意向を受け,北朝鮮とは和睦を図り,今やイラン問題に相当程度注力しようとしている。——と言った見方をしている。

 混沌の火種が残る中での動きとなりそうであるが,引き続き注視する必要がある。

 尚,このような認識を基にすると,日本が,米国から,俗に言う,はしごを外されると,朝鮮半島問題からは,日本だけが阻害されてしまうリスクが顕在化するのではないかと筆者は懸念している。

在韓米軍撤退問題について

 上述したような情勢下,一つのピンポイントでの議論の一つに,「在韓米軍撤退問題」がある。これに対して,例えば,香港の主要紙の一つである「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」(SCMP)は,「在韓米軍が撤退すれば中国本土が最大の被害者になりかねない」と指摘するコラムを掲載している。

 米国のトランプ大統領が在韓米軍撤退の可能性に言及したことを中国本土は歓迎しているが,在韓米軍撤退は北東アジアの核戦争を招き,中国本土にとっては,かえって打撃になる可能性があるというものである。

 このコラムの執筆者たるマイケル・ホン元シンガポール南洋理工大教授は,「北東アジアの覇権を狙う中国本土は,在韓米軍の撤退を望んでいるが,これは在韓米軍が中国本土に与えていた二つの大きな恩恵を見過ごしている。米軍の駐屯によって,日本は平和憲法を順守して再武装を諦める結果となり,中国本土から台湾に逃げて以降核兵器開発を望んでいた蒋介石も,開発を諦めざるを得なかった。しかし,在韓米軍の撤退によって北東アジアの安全保障が不安定になれば,日本は核兵器開発に乗り出す可能性があり,中国本土の脅威に直面している台湾も自らの生き残りのために核兵器を開発する可能性がある」と分析している。

 また,「仮に北朝鮮が非核化のまねごとだけをして,実際の非核化の約束を守らなかった場合,中国本土は目と鼻の先に核兵器の脅威があるという状況になる。浮き沈みの多い中朝関係を考えると,北朝鮮の核も中国本土にとっては脅威になり得る」との見方も示されている。

 これに対して,筆者は,

  • (1)日本の核武装化があるとすれば,それは米国,米軍の傘下で実施されるものであり,日本にとっての防衛面での自立とはならないが,米国は事実上,日本を東アジアの安全保障の橋頭堡にする。
  • (2)台湾の核武装化については,台湾の国民党が米国寄りなのか,中国本土寄りなのかがここのところはっきりせず,米国はこの点を確認しつつ,核武装化を容認するか否か決めることとなろう。台湾が,こうした米国の意向にそぐわない形で核武装化しようとすると,一旦は,米台関係は悪化,中国本土も台湾の核武装化には即時容認するとは思えず,台湾の立ち位置は悪化する。
  • (3)北朝鮮が中国本土の脅威となることは十分にあり得る。北朝鮮,否,金ファミリー帝国が最も信頼する国はロシアであり,中国本土とはDeal by Deal, Case by Caseの外交関係にあるからである。

と見ている。

 いずれにしても,「在韓米軍の撤退」がどうなるのか,注視しなくてはならない。

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